研究課題
ヒトへの致死率が50%を超える高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)の病原性を解明するために、ヒト呼吸器上皮細胞を用いてH5N1ウイルスの感染動態をリアルタイムで解析する新しいバイオイメージングシステムを構築することを研究の目的としている。これまでに、インフルエンザウイルスを脂質染色性の色素 (DiI、octadecyl rhodamine B chloride等) で染色し、ウイルスが細胞表面に吸着後、内部に移行していく様子を共焦点レーザー顕微鏡で観察するシステムを確立してきた。平成24年度はこれらの技術をもとに、種々の鳥インフルエンザウイルスにおける感染のイメージングを行い、その動態について比較検討した。インフルエンザウイルスは、細胞にエンドサイトーシスで侵入後、エンドソームpHの低下によりウイルスHAタンパク質が構造変化を起こし、その結果、HAとエンドソーム膜間で膜融合が生じ、脱殻を起こす。そこで、ヒト呼吸器上皮細胞を用い、ウイルス侵入後の早期および後期エンドソームを可視化し、併せてpH感受性のエンドソーム特異的マーカーを使って、侵入後のウイルスとエンドソームの動態およびpH変化について経時的な解析を行った。その結果、(従来のH5亜型ウイルスとして)2000年以前に分離された鳥インフルエンザウイルス(H5N2、H5N3、H5N9、H7N7、H9N2)に比べ、高病原性鳥インフルエンザウイルス(Asian-H5N1)では膜融合におけるpH感受性(レンジ)が高いことを見出した。これらの結果より、従来の鳥インフルエンザに比べてAsian-H5N1はより効率にヒト上皮細胞に感染し、増殖できることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト呼吸器上皮細胞におけるインフルエンザウイルスのバイオイメージングシステムを構築し、H5N1ウイルスのヒトへの病原性の新しい分子メカニズムに迫ることができたと考えられるため。
得られた成果を発展させ、投稿論文の発表に向けた準備を進める。さらに、宿主細胞のトランスクリプトームとの関連性についても検討したいと考えている。
研究遂行に必要な物品費に1,000,000円、成果発表等のための旅費に1000,000円、人件費・謝金等に200,000円、その他として100,000円を計上している。さらに前年度の未使用分600,000円を主に物品費と人件費・謝金に計上している。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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