研究課題/領域番号 |
24659485
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
越野 一朗 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80328377)
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研究分担者 |
高桑 雄一 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (40113740)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | マラリア原虫 / 膜骨格 / ATP |
研究概要 |
マラリア原虫の赤血球侵入では、「感染型虫体と共に放出される宿主由来のATPが、赤血球膜上のP2Y(11)受容体を介した情報伝達系を活性化し膜骨格を緩めることが必須であること」の証明を目的に検討を行い以下の成果を得た。 1) ATPの受容体であるP2Y(11)のアンタゴニスト、スラミンならびにNF157(スラミンよりP2Y(11)に対する特異性が高い)のいずれも、in vitro培養系におけるマラリア原虫の赤血球侵入を抑制した。2) アルカリホスファターゼならびにアピラーゼ(いずれもATPを加水分解する酵素)を培養液に添加することにより、いずれの場合もin vitro培養系におけるマラリア原虫の赤血球侵入を濃度依存的に有意に抑制した。以上、1) 2) より細胞外ATPが侵入に必要であることが明らかとなった。3) 赤血球をATP(>10 µM)で刺激すると、膜骨格蛋白質デマチンのリン酸化が有意に亢進した。またレーザー回折法による検討から、細胞外ATP刺激により膜安定性は低下する(膜骨格が緩むことを反映する)傾向が示された。デマチンのリン酸化は膜骨格を緩める(スペクトリン-アクチン間の結合を緩める)ことは別の実験で確認している(Koshino et al., J. Biol. Chem. (2012) 287, 35244-35250)ため、細胞外ATPにより膜骨格が緩むことが実証された。4) 感染型虫体を放出する寸前の感染赤血球(シゾント)中には、正常(非感染)赤血球よりは少ないものの、溶血により放出された場合にデマチンのリン酸化を惹起するに十分な濃度(数100 µM)のATPが含まれていることが確認できた。 以上より、宿主由来のATPが赤血球膜骨格を緩めることが、マラリア原虫の侵入に必要であることをほぼ明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに実験を遂行し、「赤血球侵入にはATPが必要であること」「ATPにより赤血球膜骨格の編目が緩むこと」を実証できた。 一方、赤血球侵入に必要なATPは宿主に由来することを証明するために、遊離メロゾイトを用いた検討を計画していたが、感染能力を保持したままの遊離メロゾイトを単離するのが難しく、成果を得ることができなかった。高度に同期した大量の感染赤血球を用いて単離を行う必要があることが判明したので、25年度はそのように方法を改善し、成果を得たい。
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今後の研究の推進方策 |
上記 [現在までの達成度] で述べた通り、高度に同期した大量の感染赤血球を用いて遊離メロゾイトを溶血液から単離し、1) 溶血液中にATPが存在すること、2) 単離したメロゾイトは赤血球に侵入できないこと、3) 溶血液あるいはATP溶液に再懸濁すると侵入能を回復すること、4) ATPを枯渇させた溶血液では侵入能が回復しないこと、を示し、「ATPが宿主赤血球に由来する」ことを実証する。 さらに、治療を目指して「特異的アンタゴニストならびに抗体が侵入を抑制すること」について検証し、特異的・高親和性アンタゴニストならびにFab断片のマラリア原虫の侵入抑制効果をin vitroならびにin vivoで検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
モノクローナル抗体作製のための免疫原ペプチドの選定に慎重を期したため時期が多少ずれ込み、ペプチド合成と抗体作製(いずれも受託。現在進行中)の費用が次年度の請求となった。
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