研究概要 |
平成24年度までに明らかにした、「熱帯熱マラリア原虫(以下、Pf)の赤血球侵入には細胞外ATPが必要であること」「細胞外ATPはプリンヌクレオチド受容体を介した情報伝達経路を活性化することにより、赤血球膜骨格の網目を緩める(これはPfの赤血球侵入のための必要条件となる)こと」に基づき、本年度はATPがどこから供給されるのか、ならびにプリンヌクレオチド受容体に対する特異的モノクローナル抗体がPfの赤血球侵入を抑制するか、について検討を行った。 Pfが感染赤血球を破裂させ感染型虫体(メロゾイト)を放出するのに伴い、培養上清中のATP濃度が経時的に上昇した。ATP濃度は、ほぼ全ての感染赤血球が破裂し終えた24時間後には約200 nMに達した。破裂した赤血球の近傍では、ATPがこれより数オーダー高い濃度で存在したと推測され、赤血球膜骨格の網目を緩めるに充分な濃度に達していたと考えられる。また、破裂する前の感染赤血球内ATP濃度は300~400 μMであったと算定され、この値は前年度に測定した感染赤血球内のATP濃度と一致することから、Pfの侵入に利用されるATPは宿主赤血球に由来するものでまかなわれていることが強く示唆された。 さらに、遊離メロゾイトを用いた検討を試みたが、過去の報告(PNAS (2010)107, 14378-83)通りの方法では赤血球侵入能を維持したメロゾイトを単離することができず、原虫自身ではなく宿主赤血球由来のATPが必要であることを直接実証するにはいたらなかった。 プリンヌクレオチド受容体(P2Y11)のATP結合部位ペプチドに対するモノクローナル抗体を11クローン作製した。フローサイトメトリーによる検討では赤血球、すなわちインタクトな受容体分子への結合は現時点では確認できておらず、今後条件の最適化を行う予定である。
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