研究課題/領域番号 |
24659490
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水口 雅 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20209753)
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研究分担者 |
池田 和隆 公益財団法人東京都医学総合研究所, その他部局等, その他 (60281656)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 自閉症 / mTOR / 結節性硬化症 / 行動解析 / 疾患モデル動物 / トランスレーショナルリサーチ / 薬物治療 |
研究概要 |
結節性硬化症は自閉症の基礎疾患となる単一遺伝子病の中で頻度が高く、自閉症患者の約1%を占める。結節性硬化症は自閉症を合併しやすく、過半数の患者に自閉症症状が認められる。結節性硬化症の原因遺伝子TSC1とTSC2の蛋白産物はmTOR細胞内情報伝達系に属し、細胞の成長・増殖・死、代謝(栄養)、免疫(炎症反応)のほか知能・社会性などの脳機能を調節する。 本研究では結節性硬化症モデル動物であるTSC1およびTSC2ノックアウトマウス(成獣)に対し行動解析を行ったところ、新奇マウスに対する探索行動の減少、立ち上がり行動の増加という社会的相互交流障害が認められ、自閉症の中核症状である対人関係障害に該当すると考えられた。これらのマウスに対しmTOR阻害薬ラパマイシンを投与すると、上記の行動異常が改善して野生型と差がなくなった。つぎに2型モデルマウスの脳内の遺伝子発現と蛋白リン酸化状況を調べたところ、mTOR系の複数の因子(G3k3b、Mapk1、Ulk1、Eef2k、Deptor)の遺伝子発現に異常が生じており、下流のS6K蛋白のリン酸化が亢進していたが、これらの異常もラパマイシン投与後に正常化した。以上からラパマイシンによる行動の改善は、mTOR系の機能の正常化を介したものと判明した。 従来、ヒト自閉症患者の中核症状(対人関係障害など)を改善する薬物はなかった。本研究によりmTOR系機能異常(TSCに代表される)を背景とする自閉症スペクトラムに対するmTOR阻害薬(ラパマイシンおよびラパログ)を用いた新たな薬物療法の可能性が拓かれ、トランスレーショナルリサーチとしての意義はきわめて大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、平成24年度にSERT変異マウスを用いた実験を主として行い、セロトニン系異常のモデル動物におけるmTOR系の解析を行う予定であった。しかし予備実験においてTSC1およびTSC2ノックアウトマウスというmTOR系異常のモデル動物でめざましい結果が得られたことから、計画を一部変更して、同年度はこれらマウスにおける行動解析と遺伝子・タンパク解析に集中した。その結果きわめて有意義な所見を得て一流学術雑誌に論文を掲載するとともに、新聞・雑誌による報道によりその成果を広めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は当初の研究計画に沿ってSERT変異マウスを用いた実験を再開する。 また平成24年度に大きな成果を挙げた結節性硬化症マウスの研究に関してはTSC1およびTSC2のダブルノックアウトマウスの解析、幼若マウスにたいするmTOR阻害薬の効果など、従来の成果をさらに大きく発展させるための研究を新たに企画する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度における研究計画の変更(SERT変異マウスの実験を延期し、結節性硬化症マウスの実験に集中した)にともない、当該年度中の物品費の必要額が減少したため繰越金が発生した。 SERT変異マウスに関しては、当初平成24年度に計画していた実験も含めて平成25年度内に集中して施行することとしたので、上記繰越金もその目的に沿って使用する。
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