研究課題
発達障害と腫瘍発生の双方に関与する分子病態を解明し、腫瘍のみならず発達障害も視野に入れた新規薬物治療開発のための分子基盤を構築するために、本年度は、広汎性発達障害と神経芽腫を併発した患児の初発、再発の腫瘍検体および正常検体を用いて、HiSeq2000によるexome解析を行った。症例は4歳男児。3歳ころから言葉の遅れを指摘されており、広汎性発達障害と診断された。4歳時に右副腎原発の神経芽腫(stage 4)を発症し、寛解を得たものの、2年10か月後に頚部リンパ節の単独再発を来している。exome解析の結果、腫瘍細胞に特異的なアミノ酸置換の変化を伴うsomatic変異は初発検体で5個、再発検体で32個検出された。初発、再発腫瘍で共通する変異はALKの1174ミスセンス変異のみであった。ALKは神経芽腫の標的分子の一つであることから、この変異がドライバー変異であり、他の変異の多くはパッセンジャー変異である可能性が示唆された。germline変異としては、SNPのデータベースに登録のない、かつアミノ酸置換の変化を伴うものとしては300個程度検出された。この中には、家族性のミオクローヌスてんかんの原因遺伝子と考えられるCSMD2遺伝子のミスセンス変異が含まれていた。CSMD2は胎児脳や中枢神経系で高発現している膜貫通蛋白であるが、機能に関しては十分に解明されていない。うつ病や他の精神疾患との関連性も報告されている。またCSMD2は肺がんや食道がんで発現が低いこと、また膵臓がんでは異常なメチル化を生じていることが報告されている。興味深いことに、この遺伝子は神経芽腫で高頻度に欠失している1p34領域に存在するが、本症例の腫瘍でもこの領域の欠失が確認されている。以上の結果より、CSMD2の異常は、本症例において発達障害と腫瘍発生の双方に関与する標的分子の一つである可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
腫瘍と発達障害の患者検体のexome解析が終了し、validationも行った。その結果、候補標的分子の抽出を行うことができている。
1)次世代シークエンサーによるエクソーム解析. 家族歴が濃厚な発達障害と腫瘍を合併する遺伝性疾患につき、更に症例を収集し、exome解析を行う。この場合、罹患患者とともに解析可能な非罹患家系メンバーが同時に解析される。検体の収集にあたっては小児神経チームと血液腫瘍チームが連携して行う。解析検体は全て連結可能匿名化を施し、臨床情報データベースを構築する。2)SNPアレイによるゲノムコピー数の解析. エクソーム解析により原因遺伝子が同定されなかった試料に関して、ゲノムの大きな欠失や増幅などの異常を想定して、Affymetrix社GeneChip500Kアレイ(CNAG/AsCNAR解析アルゴリズム)を用いて、網羅的ゲノムコピー数の解析を行う。3)網羅的エピゲノム解析. 25年度は発達障害と腫瘍の発症に関与するエピジェネティックな修飾の網羅的解析にも着手する。i)高密度タイリングアレイによる網羅的メチル化解析 超音波によりGenomic DNAを断片化し、抗メチルシトシン抗体を用いて免疫沈降を行う(MeDIP)。次にPCRで断片化したDNAを増幅し、Human Promoter1.0 array (Affymetrix社)とハイブリダイゼーションを行う。ii)次世代シークエンサーを用いたメチル化領域の検出 メチル化DNA領域をEpiXplore Methylated DNA Enrichment Kitを用いて濃縮し、HiSeq 2000およびGAIIxを用いてゲノムワイドなメチル化解析を行う。
該当なし
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