研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究は、MLL-ENLキメラ蛋白による白血病発症をモデル系とし、発症年齢に応じて、細胞系統、予後の異なる病態を呈する分子機構を明らかにすることによって、細胞運命制御の謎に迫ることを目的とする。そのために、白血病の発生時期をコントロールできる独自の遺伝子改変マウスを用いて、時空の異なる組織から同一条件で白血病幹細胞を発生させ、発生学・エピジェネティクス的観点から病態を解析する。具体的には、Cre-loxPを用いた誘導発現型MLL-ENLトランスジェニック(Tg)マウス(Ono R et al., Blood、revise中)由来の造血幹細胞分画(c-kit+、 Sca1+、 Lineage-;KSL細胞)を用いて、コロニー継代実験を行った。誘導に関しては、Creが供給されるとloxP部位でEGFPカセットが切断され、後方に位置するMLLキメラ遺伝子が発現する仕組みである。Tg由来胎生14.5日の肝(FL)細胞または生後8週のTg骨髄細胞を用い、KSL細胞をFACSにて単離し、in vitroでSCF、FLT3 ligand、IL-6、TPO存在下にCre発現レトロウイルスを感染させ、その細胞の性質をコロニー継代実験によって解析した。培養は骨髄系条件(SCF、IL-6、IL-3、GM-CSF存在下)とリンパ系条件(SCF、FLT3 ligand、IL-7存在下)で行った。また、KSL細胞以外に、共通リンパ系前駆細胞(CLP細胞)を用いた同様の実験も行った。結果は、骨髄KSL/骨髄系培養は不死化したが、骨髄KSL/リンパ系培養、骨髄CLP/骨髄系培養、骨髄CLP/リンパ系培養では不死化は見られず、FL KSL/骨髄系培養では弱い不死化が見られた(FL KSL/リンパ系培養は未施行)。FL細胞は成獣骨髄細胞より不死化しにくい傾向が見られた。
2: おおむね順調に進展している
細胞の発生時期や存在場所が異なると、同じような表面形質を持っていても、白血病発症へ至る過程での不死化/増殖力が異なる可能性が示唆されるという興味深い結果が得られ、当初の目的に見合った実験系と結果であると思われた。一方、リンパ系細胞の培養条件はサイトカインの組み合わせを変えるだけでは不十分で、ストローマ細胞との共培養系の開発などの工夫が必要と考えられた。
ヒトの急性リンパ性白血病細胞では免疫グロブリン遺伝子やT細胞抗原受容体遺伝子がモノクローナルに再構成している事実を考えると、未熟なリンパ系前駆細胞であるCLPだけでなく、分化したリンパ球を用いた実験も行う必要がある。また、FL細胞において不死化が十分には見られない場合は、例えばFLT3変異体等を用いた多段階発がん実験も要検討課題である。実験環境としては、修士の大学院生が平成24年度で卒業し、今後、マウスの骨髄移植実験などを大規模で行うにはやや厳しい状況にあり、in vitroの実験系を重点的に行うなどの方針転換も必要と思われた。
該当なし
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