研究実績の概要 |
本研究は当教室で樹立された、Creリコンビナーゼによる誘導発現が可能なMLL-ENLトランスジェニックマウスを用いて白血病発生母地の差異が病態の多様性に与える影響を探ることが目的である。初年度は胎仔肝細胞は成獣骨髄細胞に比べて不死化しにくいこと、次年度は発生学・エピジェネティクス的見地から、Tet1遺伝子に着目し、Tet1が造血幹細胞の腫瘍化に必須であることを見出した(未発表データ)。この結果は最近報告された論文(Huang H et al., PNAS, 110, 11994-9, 2013)の結果とも矛盾しない。 しかし、本年度、Tet1の機能をさらに詳細に解析したところ、前年度の知見に関しては、より慎重な解釈が必要であることが新たに判明した。即ち、Cre-ERの発現目的でレトロウイルスを用いたのであるが、造血細胞が不死化しなかったのはTet1の欠損によるものではなく、Cre自身の細胞毒性が影響していた可能性が高いことが判明したのである(未発表データ)。実際、Tet1コンディショナルノックアウトマウス(Floxedホモ)とMLL-ENL誘導発現型トランスジェニックマウスを交配したマウスをMx-Creマウスと交配したところ、 polyICを投与しなくても、基底水準のMxプロモーター活性によってCreがわずかに発現し、Tet1欠損細胞が生じ、その細胞が優勢に増えるという、前年度と逆の結果が得られた。即ち、造血幹細胞の癌化に対してTet1はむしろ負に働く可能性が高いことが示唆された。これは正常造血にもある程度当てはまり、骨髄移植モデルではTet1欠損細胞の方が優勢に増殖する傾向が認められた(未発表データ)。現在、正常造血・異常造血におけるTet1の機能をさらに詳細に解析している。
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