研究課題
移植ドナーが不足している現在、ヒトES/iPS細胞から長期骨髄再構築能を持った造血幹細胞を作り出す技術の開発は重要な医学的課題である。ヒトES/iPS細胞から造血幹細胞を作出するために、その発生、増殖、支持能を持つストロマ細胞株をES/iPS細胞から樹立することを試みた。ヒトES/iPS細胞を中胚葉に分化させ、更に造血系が出やすい環境に培養条件をスイッチさせ血球とストロマ細胞が同時に出現してくる条件を同定した。数代継代が可能なストロマ細胞が得られた。この細胞は短期的にはヒト臍帯血CD34+細胞の増殖を支持したが、細胞株として樹立することはできなかった。多くの場合、継代していくと線維芽細胞様の細胞が出現し、それに置き換わってしまうことが原因と考え、セルソーターを用いてストロマ細胞のクローニングを試みたが、ほとんどの細胞はソーターで分離後増殖しなかった。ストロマ細胞株として樹立するため新たな試みを種々実施している。
3: やや遅れている
造血幹細胞の発生、増殖、維持にはニッチと呼ばれる特殊な環境が必要であると考えられている。今回、ヒトES/iPS細胞からニッチ機能を持つストロマ細胞の樹立を試みた。われわれが開発したマトリゲル上での二次元造血分化系を用いて、ヒトES/iPS細胞を中胚葉に分化させ、そこから造血を支持できるストロマ細胞の作出を試みた。bFGF存在下で未分化培養していたES/iPS細胞をBMP4+Wint3a+VEGFを含むDMEMを基本とした培養液に変換した分化培養系で1週間培養後、造血サイトカインに変更し、さらに培養継続していると造血細胞が出現するようになり、造血コロニー周辺に培養皿に軽く付着したストロマ細胞の出現が観察された。顕微鏡下にストロマ細胞を選択して、経時的に分離を試み、ストロマ細胞が多種類得られた。造血幹細胞の増殖を支持するストロマ細胞のスクリーニングのため、ヒト臍帯血から分離したCD34+細胞をストロマ細胞の上に乗せ1週間培養した後細胞を回収し、メチルセルロースコロニー法およびNOGマウスへの移植系を用いて造血幹細胞/造血前駆細胞の生存/増幅の有無を判定した。短期的にはストロマ細胞はヒト臍帯血CD34+細胞の増殖を支持したが、細胞株として樹立することはできなかった。多くの場合、継代していくと線維芽細胞様の細胞が出現し、それに置き換わってしまうことが原因と考え、セルソーターを用いてストロマ細胞のクローニングを試みたが、ほとんどの細胞はソーターで分離後増殖しなかった。限界希釈法により96ウェルプレートを用いて単一細胞由来のストロマ細胞のクローニングを試みたが成功しなかった。新たな方法を現在検討中である。
ヒトES/iPS細胞の培養により、種々の血液細胞やストロマ細胞が多数出現してくる系が確立された。現在の方法は無血清で他のストロマ細胞を用い無い系であるので、純粋に培養に使用したES/iPS細胞から血液もストロマ細胞も全て供給されていることになる。マウスの造血発生の研究により造血幹細胞は胎生初期(胎生10.5日)のAGM領域で発生し、増幅した後、胎児肝さらに骨髄に移動していくことが知られている。我々が以前マウスAGM領域から樹立したストロマ細胞(AGMS3)は造血幹細胞を「維持する」機能と「生み出す」機能の両方を併せ持つことが明らかになった。このことから、マウスAGM-S3と同じストロマ細胞をヒトES/iPS細胞から樹立することができれば、ヒトES/iPS細胞から造血幹細胞を作出することが可能になると期待される。それには、まずマウスAGMS3を樹立したのと同じ時期や環境をヒトES/iPS細胞培養において同定する必要がある。ヒトAGM領域の病理学的報告ではCD34陽性細胞の集塊がみられていることから、これをヒントにES/iPS細胞の分化培養においてCD34陽性細胞が集塊を作っている場所を同定し、同部位に存在するストロマ細胞を回収し、培養を試みる。これによりストロマ細胞株として樹立できればよいが、ストロマ細胞株が得られない場合には種々の方法を用いて不死化することを試み、その後クローニングにより造血支持能の強いストロマ細胞株を同定していきたい。
ストロマ共培養法により、ヒトES/iPS細胞由来の造血幹細胞樹立を試みる。造血幹細胞維持能を有するストロマ細胞クローンを増幅、確定する。マトリゲル上での二次元造血分化系を用いて、ヒトES/iPS細胞から分化誘導した血管内皮前駆細胞、もしくは造血前駆細胞を経時的にセルソータを用いて回収し、上述した方法で樹立したヒトES/iPS細胞由来ストロマ細胞と共培養する。共培養には2種類の方法を用いる。一つは2次元であらかじめ培養したストロマ細胞上に、上記の前駆細胞を重層する方法である。過去の研究で、AGM細胞を用いた場合にはこの手法でマウス卵黄能由来血管内皮前駆細胞から造血幹細胞を作出することに成功している。もう一つは3次元でストロマ細胞と前駆細胞を再凝集させ、3次元のスフェア培養を行う方法である。AGM細胞を用いた事前の検討ではこの手法でも臍帯血造血幹細胞をある一定期間継続培養できることを確認している。いずれにしろ、共培養の期間や混合細胞数、培養条件などについては詳しく検討する必要がある(ES/iPS細胞の培養は丹羽が担当)。培養後に、メチルセルロース法を用いて未分化造血前駆細胞の産生をスクリーニングするとともに、放射線照射したNOGマウスへの移植を行い、系時的にキメリズムを解析して生着能を評価することにより、ヒト造血幹細胞の作出を評価する(NOGマウスを用いた造血幹細胞の評価は中畑、大学院生が担当)。以上の方法によりヒトES/iPS細胞からの造血幹細胞作出を支持するストロマ細胞を得るとともに、この細胞を用いた、ES/iPS細胞からの造血幹細胞の大量誘導法を確立する。
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