研究課題/領域番号 |
24659512
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
八田 稔久 金沢医科大学, 医学部, 教授 (20238025)
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キーワード | 大脳皮質 / 白血病抑制因子 / 妊娠 / 胎盤 / 炎症 / DOHaD |
研究概要 |
本研究では、我々が同定した母-胎児間シグナル伝達(母体LIF-胎盤ACTH-胎児LIF)による胎児脳の発生調節機構が、母体免疫亢進に伴うIL-6過剰状態により破たんすることによって、胎児大脳皮質の形成障害や出生後の精神・神経疾患の素因になるという作業仮説の検証を行い、精神神経疾患DOHaDの分子基盤解明に迫る。本年度は、妊娠12.5日のC57BL/6J雌マウスにPoly I:C[0、 4 (poly 4)、20 (poly 20) mg/kg BW) を腹腔内投与し、母体免疫亢進の程度と胎児脳における神経幹/前駆細胞数の関係について検討を行った。神経幹/前駆細胞の細胞分裂頻度を評価するために、Poly I:C投与48時間後(14.5 dpc)に、5-ethynyl-2'-deoxyuridine (EdU)を母獣の腹腔内に投与した。EdU投与2時間後に胎児を摘出し、脳の連続パラフィン切片を作成した。共焦点レーザー顕微鏡下にStereo Investigatorを用いたステレオロジー解析を行い、右側大脳新皮質におけるニューロン総数およびEdU陽性細胞総数ならびEdU陽性細胞率を求めた。その結果、14.5 dpcでは、大脳皮質ニューロンの総数はPoly I:C投与群とコントロールに差はないが、EdU陽性細胞率はpoly 4およびpoly 20でともに減少していた。一方、出生直前の18.5 dpcでは、大脳皮質ニューロンの総数は、Poly I:C投与により減少することが明らかとなった。また、皮質ニューロンの総数と大脳皮質体積には正の相関関係があり、それらはいずれもPoly I:C投与量とは負の相関性を持つことが示された。この結果は、胎児脳脊髄液中のLIF濃度、胎児血清中のACTHがいずれもPoly I:Cで減少することに対応する結果と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、母体免疫亢進の胎児大脳皮質の形成に与える影響を、組織定量学的に評価するために、direct 3D counting法を用いたステレオロジー解析を行った。この方法は、通常の組織切片を用いて細胞数を二次元でカウントする場合に不可避であるスプリッティングエラーを含まず、サンプリングに伴うバイアスも極めて少ない、最も優れた組織定量解析手法であり、我々の研究でも有意義な成果が得られた。しかし、計測結果の高い精度とのトレードオフとして、解析に長時間を要することが欠点である。このため、平成25年度に予定していた胎児脳の遺伝子発現プロファイルの変化を解析することができなかった。また、LIFおよびACTH下流のパスウエイを構成する分子群に対するノックダウン実験を予定していたが、予備実験では十分な機能阻害効果が得られず、実験系の変更を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
ステレオロジーによる組織定量解析は、脳形成障害の評価には必須である。このため、平成25年度に試行した、共焦点スキャナユニット(CV7000、横河電機、金沢医大に設置済み)を用いた自動解析法の導入を検討するなど、実験の効率化を図る。また、DNAマイクロアレイ解析については、本学共同研究施設に解析装置が整備済みであり、専門のオペレータの協力が得られるため、それらを活用する。ノックダウン実験については、ベクターの選定、ノックダウンコンストラクトの最適化などを検討すると同時に、胎盤ACTHのシグナルに対する受容体であるメラノコルチン受容体5 (MC5R) ノックアウトマウスを導入し、研究に用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
母体免疫亢進の程度による胎児脳の遺伝子発現プロファイルを比較検討する予定であったが、脳の組織定量解析に大半の時間を割いたため、DNAマイクロアレイ解析を行うことができなかった。 またノックダウン実験系を確立するための時間的余裕が十分に得られなかったため、複数のノックダウンコンストラクトを比較検討することができなかった。 DNAマイクロアレイ用チップ代および関連薬品代として600,000円、ノックダウン実験用薬品代として78,572円を計上する。
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