研究実績の概要 |
母胎児間シグナル伝達(母体白血病抑制因子(LIF)-胎盤副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)-胎児LIF)の破たんと胎児大脳皮質の形成障害や出生後の精神・神経疾患の素因になるという作業仮説の検証を目的とする。 【前年度までの成果】妊娠母体に Polyinosinic:polycytidylic acid (Poly I:C)を投与することにより惹起される母体免疫亢進モデルを用いた。すなわち,妊娠12.5日(12.5 dpc)のC57BL/6J雌マウスにPoly I:C (4,20 mg/kg BW) を腹腔内投与し,Poly I:C投与量と母体IL-6, LIFおよびACTHレベルの相関性について検討を行った。その結果,母体IL-6はPoly I:Cと正の相関を示したが,胎児脳脊髄液LIF濃度,胎児血清ACTHはPoly I:C 20mg/kg BW投与により減少した。Poly I:C 20mg/kg BW投与では,胎児大脳の神経幹細胞/前駆細胞の分裂頻度および大脳皮質ニューロンの総数が減少した。 【最終年度】母体間LIシグナル関連分子の胎盤選択的ノックダウン法について検討を続けたが,実験系の確立には至らなかったため,胎児への過剰な炎症シグナルの強制伝達実験を行う事が出来なかった。母体のLIF刺激後の胎児大脳の遺伝子発現変化についてDNAマイクロアレイを用いて解析した。その結果,LIF刺激を行った胎児大脳で発現亢進したトップ20遺伝子のうち14個が,自閉症との関連が報告されているものであった。特に,大脳インターニューロンの産生,分化誘導,機能に密接に関与する遺伝子が多く含まれていた。この結果は,母胎間LIFシグナルの破たんが,胎生期におけるインターニューロンの産生・分化障害を引き起こし,それが自閉症スペクトラムのリスク素因形成に関与することを強く示唆する。
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