研究課題
現在治療薬として使用されているバリア機能改善剤には抗炎症作用はなく、またステロイド外用薬はその副作用から長期の使用が制限される。本研究ではこれらの問題を、解決するためにバリア機能の改善と抗炎症作用を合わせ持つ皮膚に優しい安全で有効な外用剤の開発を目的とする。本年度は以下の3点を検討した。1 コレステロールの皮膚炎症抑制作用とバリア機能改善作用:コレステロールは皮膚のバリアを維持する角層内セラミドや遊離脂肪酸、細胞膜の構成物質として重要であることはよく知られているがその局所投与における表皮細胞・バリア機能への影響や抗炎症作用を確認する検討は過去行われていない。我々はマウスの接触皮膚炎モデルにこのコレステロール含有ローションを外用することで皮膚のバリア機能障害を抑制すること、炎症やアトピー性皮膚炎にみられる湿疹反応を抑制できることを検討してきたが本年度はさらに基剤や他のアトピー性皮膚炎モデルにも適応可能か検討した。2 11β-HSD1 (11β Hydroxysteroid dehydrogenase)のケラチノサイトのサイトカイン産生への影響:我々は表皮角化細胞が11β-HSD1発現し、分化刺激によりその活性が上昇 させることを見いだし、報告した。本年度は11β-HSD1が表皮の炎症にどのような影響を与えるかを検討した。3 11β-HSD1の表皮特異的なノックアウトマウスの作成:上記の作用を生体で検証するために、全身型の11β-HSD1を先ず作成し、このマウスを用いて様々な皮膚の炎症の動態を検証した。また中枢の影響を考慮し、K5プロモーターとCre-LoxPシステムを用いて表皮特異的な11β-HSD1ノックアウトマウスを作成することを試みた。
3: やや遅れている
平成24年度計画の現在までの達成度:評価 (3)やや遅れている。1 培養ヒト表皮細胞のコレステロール刺激による遺伝子発現の遺伝子チップを用いた網羅的解析。(理由) 本年度は先にマウス皮膚炎の抑制に効果のある基剤や濃度の検定や確認に時間を要しており、遺伝子解析の実験系までは進めなかった。ただコレステロール外用薬のTEWL,皮膚の水分保持能は解析が終了した。また準備実験としてSDSを対照とした培養表皮ケラチノサイトのサイトカイン産生の測定条件がほぼ終了した。2 11β-HSD1を効率的に発現誘導させる低分子化合物の探索:評価 (2)概ね順調に進展している。現在候補化合物としてはM-TOR阻害薬(ラパマイシン)、TÅÇE阻害薬(TNF-a Processing Inhibitor-1,その他(化合物F)を培養ヒトケラチノサイトに添加し、11β-HSD1の発現への影響を検討している。またHSD2の関与も考えられるためにそれぞれのsiRNAを用いて炎症性サイトカイン発現への影響も検討している。さらに11β-HSD1の表皮特異的なノックアウトマウスの作成にも成功し、さらにこの酵素の生体での作用を詳細に解析できることが期待できる。3 皮膚細胞の三次元培養を用いたコレステロール局所塗布の安全性試験:評価 (3)やや遅れている。(理由) すでにこの方法はEuropean Validation and the European Cosmetic Association (EVECA)で確立された方法として認識されており、国内の化粧品会社でも外用剤の細胞毒性を見る試験として使用されておりいつでも実験は開始できるが、に11β-HSD1表皮特異的ノックアウトマウス作成とその解析に時間を要し、平成25年度に開始したい。
1 マウスモデルに対するコレステロールの局所投与における解析:免疫組織学的解析、角質水分蒸散量、角質含有水分量の変化。:確立された方法により解析する。結果が得られれば11β-HSD1誘導薬を添加した薬剤を用いて効果を検討する。あわせて紫外線、ハプテン誘導性皮膚炎への効果も検討する。またコレステロールの表皮ケラチノサイトへの毒性試験も単層培養皮膚と3次元モデル皮膚を用いて行う。(予想される問題点)局所適応には外用剤の基剤が問題となる。コレステロールはクロロホルムに溶けやすいことからクロロホルムに溶解した形で塗布を開始する。対照には溶媒塗布を準備する。同時に白色ワセリン、親水軟膏、マクロゴール400、プラスチベースに溶解したものを使用していく。2 ヒトにおけるコレステロール局所投与の安全性と臨床効果の検討:倫理委員会へはすでに申請済みであり、承認後、健常ボランティア、アトピー性皮膚炎患者群、疾患コントロールとして乾癬患者群にコレステロール外用剤を塗布してもらい、角質水分蒸散量・角質水分量、炎症所見の改善度を見る (予想される問題点)湿度、気温に大きく左右される可能性が考えられる。恒温恒湿室の設備は当院にないことから、その都度、測定時の湿度・気温をデータとして残しながら測定していく事で逆に湿度・気温の影響もデータ解析に反映させたいと考えている。3 創薬へのアプローチ:平成24年度と25年度の基礎データにより最適の濃度と基剤を検討し、25年度の臨床試験で皮膚炎の改善効果、予防効果を評価し、医薬機関の研究者と創薬の可能性について、開発企業候補を検討していく。(予想される問題点)長期安全性試験や薬剤の刺激試験などは企業との連携で可能と考える。
24年度繰越額を含めて旅費として140万を、2013年5月6日-11日、IID2013 ( 国際研究皮膚科学会)およびサテライトシンポジウム出席(英国 エジンバラ)及び他の学会参加に使用予定。マウスや試薬など消耗品に70万、研究報告に10万を使用する予定。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件)
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