本研究では、地域精神保健活動に立脚して地域ベースで精神疾患の生物学的な病態解明を目指す研究を有効に行うための情報を集積し、今後、同様の研究が盛んに行われる素地を作ることを目標に下記の調査・研究を行った。 (1)被災後の精神保健活動と被災後に行っている健康調査に関する聞き取りを行い、健康調査を行う上での留意点の整理を行った。(2) ストレス負荷による唾液と血液の免疫細胞の機能、遺伝子発現プロファイルの変化の相関を検討し、地域ベースで血液よりも採取が容易である唾液検体を対象とする生物学的研究の有用性と応用可能性を検討するための研究を行った。東日本大震災に被災した者で研究の趣旨を理解し、書面での同意の得られたもののうち、心的外傷後ストレス反応が一定水準以上に顕れている者とほとんど顕れていない者各8名の唾液を採取し、総RNAの抽出、遺伝子発現プロファイルの比較を行うとともに、唾液中の単球、粘膜上皮細胞分画毎の遺伝子発現プロファイルとの比較を行った。更に、この16名とは独立の約50名の唾液検体でも検証することで、唾液検体を災害ストレスのバイオマーカー研究に用いることの妥当性を多角的に検討した。唾液にはヒト由来の多様な細胞とともに細菌検体も含まれているが、このことに留意すれば、ストレス研究に有用であることが示唆された。本研究の成果は地域ベースの生物学的な精神疾患研究の体制づくりの促進と技術開発に貢献するものと期待される。
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