統合失調症はどの民族、人種にも比較的同じ頻度に発生しているが、動物には統合失調症は知られていない。それでは統合失調症はヒトの進化のどの過程で起こったのであろうか。本研究は、統合失調症の起源をとくに文明との関係に中心にゲノム解析データを利用して進化医学的観点から答えを出すことを目指す。そのために、今年度は自験データを中心に解析した。14例の統合失調症患者と32名のコントロールに対して、次世代シークエンサーによるエクソーム解析を行なって、統合失調症患者に多いゲノムの多様性や変異の特徴を統計的に把握した。その結果、比較的頻度の高い変異に関しては、有意に遺伝子頻度が0.5より大きいものが統合失調症群に多かった。これは、統合失調症抵抗性の変異がヒトの進化の過程で出現し、それが増えてきつつあることと解釈できる。また、多型頻度以下の稀な変異では、トータルとしては有意差はなかったが、統合失調症の候補遺伝子トップ300に絞ると、有意に統合失調症群に多く検出された。この結果は、新しい統合失調症のリスクになる変異が最近起こり、しかし、遺伝子頻度は小さいままにとどまっていることを示している。これらの結果は、当初の本研究の仮説である現代社会においては統合失調症は遺伝的に不利で、統合失調症になりにくいゲノム構成の人が増えつつあるが、その一方で突然変異により統合失調症のリスクを増大しようとする力が絶えず働いていること、のバランスになっていると解釈することができ、本研究の仮説と矛盾しない結果であった。
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