本年度は、大脳基底核出力ニューロンが存在する黒質網状層、および出力ニューロンにより活動性の調節を受けるドーパミン細胞が存在する黒質緻密層において、機能遺伝子の発現を調べた。統合失調症15例、精神神経疾患のない対照例15例から、黒質の脳組織切片を赤核よりも吻側のレベルにおいて、脳幹の長軸に垂直の面で作成し、in situ hybridization法にて、出力ニューロンの伝達物質GABAの合成酵素であるGAD67のmRNAとドーパミンニューロンに発現するドーパミン合成酵素tyrosine hydroxylase (TH)と電位依存性カリウムチャネルのKCNS3サブユニットを検出し定量した。 その結果、GAD67 mRNA発現レベルの平均値(±標準偏差)は、統合失調症例で15.7±15.4 nCi/g、健常対照例で22.6±13.7 nCi/gであり、統合失調症で約30%低かったが、統計学的には有意性は認めなかった (p=0.19)。TH mRNA発現レベルの平均値(±標準偏差)は、統合失調症例で855±445 nCi/g)、健常対照例で1054±333 nCi/gであり、統合失調症で約19% の低下を認め、この差は統計学的に有意であった(p=0.03)。KCNS3 mRNA発現レベルの平均値(±標準偏差)は、統合失調症で39.2±33.5 nCi/g、健常対照例で61.4±24.9 nCi/gであり、統合失調症では約36% 低く、この差は統計学的に有意であった(p=0.003)。 以上より、統合失調症では、大脳基底核の出力ニューロンよりも、出力ニューロンにより抑制性の制御をうけるドーパミン作動性のニューロンに変化が顕著であることが判明した。
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