研究課題
本研究課題は、青年期双極性障害(BD)と自閉症スペクトラム障害(ASD)の間に何らかの病態的類似性があるのではないかという仮説に基づき、実施された。最終的な対象者数は双極性障害者46名、自閉症スペクトラム障害者52名、定型発達者(TD)64名であった。①Autism-spectrum Quotient(AQ)を用いた自閉症傾向の検討では、BDが平均34.4±SD6.7、ASDが24.1±7.2、TDが16.0±5.7であり、有意にASD>BD>TDであった。これは、BDにASD的な側面のあることを示唆する。②Dimensional Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale(DY-BOCS)を用いた強迫症状の検討では、TDに比べBDでは有意に強迫症状の頻度や程度が大きく、DY-BOCS合計得点はAQ得点と有意な相関を示した(r= 0.432)。これはBDが強迫症状を併存することが多く、強迫症状が自閉症傾向と関連していることを示唆している。③ロールシャッハ・テストを用いた検討では、動物運動反応はTDに比べ、BDとASDにおいて有意に少なく、かつこの指数はAQと有意な正の相関を示した。また純粋形態反応はTDに比べ、BDとASDにおいて有意に多く、かつAQと有意な負の相関を示した。この結果は、あいまいな図形の視覚的認知に、BDとASD両者に類似な機能があり、またこれが自閉症傾向を基盤としていることが示唆される。その他にMRIも撮像したが、これを用いた脳の構造的な解析は今後行う予定である。以上の結果は、従来なされてこなかったBDとASDに着目した症候学的、脳科学的な研究を進めることの意義を示していると考える。