研究概要 |
統合失調症の病態は未解明のままであるが、遺伝要因と環境要因の相関が病態形成に深く関与すると示唆されている。我々は統合失調症の疫学報告に着目した動物モデルとして仮死モデルを作製し、統合失調症の本体に関わるとされるドパミン神経系の感受性亢進を再現した。本研究計画では、この仮死モデルと統合失調症死後脳に共通する脳内遺伝子発現をエピジェネティクスの観点から評価し、ドパミン神経系の感受性亢進にかかわる遺伝子のメチル化異常を同定してそのメカニズム解明をめざす。 平成25年度には、6週齢(思春期)と12週齢(成長後)の仮死モデルラットから前頭前野皮質(Prefrontal cortex: PFC)と海馬を取り出し、リアルタイムPCR法を用いて統合失調症候補遺伝子のmRNA発現量を測定した。候補遺伝子にはドパミンと関連が深いAKT1, BDNF, COMT, ErbB4,およびNeuregulin-1の5種類を選定した。また、ウエスタンブロット法を用いてタンパク質量を測定した。統計学的有意差はp<0.05とした。 この結果、仮死モデル12週齢のPFCにのみ有意な遺伝子発現変化があり、海馬には有意差は認められなかった。PFCで認められた有意な変化はCOMT mRNAの増加およびNeuregulin-1 mRNAの減少であったが、同部位でのCOMTとNeuregulin-1のタンパク質発現量に有意な変化は見られなかった。以上の仮死モデル12週齢のPFCの遺伝子発現の変化は、すでに我々が報告した仮死モデル12週齢の側坐核ドパミン系の機能異常に関与する可能性を示唆する。なお他の遺伝子AKT1, BDNFおよびErbB4については、いずれも有意差は見られなかった。 以上の結果から、PFCにおけるCOMTとNeuregulin-1 mRNA発現量の変化が、統合失調症の病態であるドパミン系の機能異常に関与している可能性が考えられた。出生時の低酸素負荷によるCOMT遺伝子とNeuregulin-1遺伝子のメチル化の変化を解析する必要があったが、交付期間中の解析には至らなかった。
|