研究課題/領域番号 |
24659544
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小川 豊昭 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 教授 (20194441)
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研究分担者 |
津田 均 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 准教授 (00302745)
古橋 忠晃 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 助教 (50402384)
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キーワード | 引きこもり / 軽微アスペルガー障害 / 自閉性に対する知的代償機能 / 外傷性自閉スペクトラム / 自閉的システム化 |
研究概要 |
軽微アスペルガー障害をいくつかの観点から解明することが出来た。その第一は、大学生のひきこもりと軽微アスペルガー障害との関係である。名古屋大学では、おおよそ200名ほどの引きこもり学生がいると推定される。そのうち70名ほどが学生相談センターメンタルヘルス部門で定期的に治療を受けている。その中でおおよそ30%が軽微アスペルガー障害と診断された。そのような引きこもり学生を詳細に見ることで逆に軽微アスペルガーの本質について探索した。引きこもり学生に対して力動的な観点からインテンシブな治療を行った。すると軽微アスペルガー障害に基づく引きこもりでは内界を持たず葛藤も見いだせなかった。心的空間に奥行きが無いのが特徴である。そのため葛藤の存在を想定して介入すると彼らは困惑するだけで、何ら洞察へは至らず、心的空間は謂わば2次元であって奥行きが無いことが見出された。 第二には、高知能高機能アスペルガー障害者のボランティアの協力を得て、彼らが自身のアスペルガー的欠損をどのようにして知的に代償しているかを詳細に調べた。これによって本来の対人機能の障害がどのようにマスクされて見えなくなっているかが解明された。アスペルガー的障害に対する代償がよく機能しているケースは、健常者との識別が困難であるが、本質的な違いが見出された。彼らは、現実の困難に対処するにあたって常にシステム化を用いていることが明らかとなった。そのシステム化は、知能のレベルに応じて複雑であるが、現実の多様性をカバーできるとは限らないので、いつも常に現実から遅れていて不適応を起こしていることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、自閉スペクトラムと健常者とは連続的に移行するという考えに対しては反対の立場である。すなわち自閉系の障害は軽くて健常に近く見える場合は、それは自閉的機能障害が軽いからではなく、その欠損を補う知的代償機能が発達しているだけのことであって、健常とは本質的に断絶していると考えている。今回は、我々のこの仮説を検証するために2つの方向からアプローチし、それぞれ有意義な結論を得ることが出来た。2つの方向とは引きこもり学生を通しての実証的研究である。またもうひとつは、高機能、高知能アスペルガー障害ボランティアらとの共同作業として彼らの思考の仕方を理論面から詳細に調べてその特徴を取り出すことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題は、やはり2つの方向から進めたい。第一は引きこもり学生の母集団の中から軽微アスペルガーによると思われるものを識別する指標を取り出すことである。また第二には、自閉スペクトラムの本質とそれを代償する機能とを更に明確にし、その代償機能では代償できないテストの課題を見出し、それを実際に引きこもり学生や軽微アスペルガー患者に適応してその感度を調べて、テストとして実用化を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
軽微アスペルガーと引きこもりの関係について、古橋が行う『引きこもり日仏比較研究』と連動させて進める予定であったが、その科研申請が不採用となったため、軽微アスペルガーについてのフランス側研究者との打ち合わせが翌年に延期された。そのため、予算として請求されていた、旅費と研究会の開催費が使用されなかった。 次年度は、上記の『引きこもり日仏比較研究」が科研での不採用が決定しているが、いくつかの補助金が得られる予定なので、フランス側研究者との研究会は予定されている。その際に軽微アスペルガーについての研究会も同時に開催する予定である。それのために日本側からの参加費と研究会の開催にが必要となる予定である。
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