研究課題/領域番号 |
24659545
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村井 俊哉 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30335286)
|
研究分担者 |
後藤 励 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10411836)
野間 俊一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40314190)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 精神医学 / 神経画像 / 行動経済学 / 依存症 |
研究概要 |
平成24年度は神経経済学的課題の妥当性を検討しつつ、病的賭博(PG)群のデータを収集し結果の解析・報告を行った(PG: 20名、ギャンブル愛好家群2名および対照群)。またインターネット依存に関しては全ての群においてその程度を評価したが、インターネット依存症と診断に至る被験者はいなかった。 研究計画に準じて、報酬系の活動を評価する課題として既に確立されているmonetary incentive delay task: MIDT (Knutson et al., 2000)を用いてfMRIを撮像しPGの非特異的報酬(依存対象以外の全般的報酬)に対する感受性を評価した。 さらにPGを特徴づける「損失の深追い」に着目し、これはPGが損失に過敏で損失を取り返そうとしているために発生しているのではないかと考えた。これを行動経済学の観点から説明すると「埋没費用効果(sunk cost effect)」にあたるのではないかと解釈し、sunk cost effectが生じている際に意思決定を行う際の脳活動をfMRIにて評価した(Sunk Cost課題)。 結果として、MIDTを用いた実験では非特異的報酬予測時にPG群は対照群と比較して腹側線条体や島皮質において活動が低下していることが明らかになった。これはつまり報酬に対して広い意味で感受性が低下していることを示している。 Sunk Cost課題に関しては対照群において機能画像データを解析し、埋没費用の発生する際に脳の島皮質や前頭葉内側部といった後悔や葛藤と関係する領域が活動することが明らかになった。PG群はコントロール群と行動データ上は有意な差を示さなかったが、脳活動は異なり、側頭頭頂接合部を利用していることが明らかになった。つまりPGは対照群と比べて近視眼的な思考に基づき意思決定していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経経済学的課題の妥当性を対照群で検討することが当初の平成24年度目標であった。MIDTはすでに確立された課題であるためこの作業は省略した。Sunk Cost課題については新規の課題であったためこれを行い、十分な妥当性が得られた。そのため両課題をPG群を対象に行いデータを収集、前述の結果を得られるまでに至っており予想を上回る進捗状況である。 臨床研究を行う際に進捗スピードのボトルネックとなりえた被験者のリクルートに関しては、一ヶ月で4名程度のペースで継続的に行うことができておりこれも順調である。 一方、インターネット依存に関しては解析が不十分であるものの、これまでリクルートした被験者の中には依存度の高い群を含むことができていない。 以上より、総じて、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
年齢、性別等がPG群とマッチしたコントロール群をリクルートする必要がある。これがちょうど健康な中年男性に相当するが、画像検査実施可能な平日にリクルートすることに困難が生じている。被験者募集方法を再考し、これらの群を集中的にリクルートすることが急務である。 さらにPGの行動特性を表すような別の行動経済学的課題を新たに作成し病理と関係した脳機能との関係を探索したい。 ギャンブル愛好家やインターネット依存度の高い者に関しては、それぞれの愛好家が集まるコミュニティー(同好会等)から被験者をリクルートすることも検討したい。 解析については、fMRIの結果が臨床指標(罹病期間や重症度)や脳構造(灰白質体積、白質統合性)とどのように関係するかについて検討する予定である。 学術論文化はもとより、これらの結果から何らかの社会政策的提言が行えるまでまとめることが次年度の目標である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通り、被験者募集に伴う人件費、解析に要するコンピュータやソフトウェア、MRIの保守点検費、研究打ち合わせ、成果を発表するために国内外の学会への参加、論文作成の際の英文校正、その他紙やトナーといった消耗品に用いる予定である
|