研究課題/領域番号 |
24659551
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲波 修 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 教授 (10193559)
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研究分担者 |
山盛 徹 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (00512675)
安井 博宣 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 助教 (10570228)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 低酸素 / グリオーマ / PET / 放射線 / 微小環境 |
研究概要 |
悪性脳腫瘍は依然として根治困難な疾患であり、その予後に低酸素領域が関与していることが分かっている。一方、低酸素状態には従来から良く知られている慢性低酸素に加え、短時間で変化する間欠的な低酸素が存在し、より浸潤転移などの腫瘍の悪性形質獲得に影響を与えることが分かってきた。本課題の目的は、「低酸素領域の量ではなく変動度合い(間欠的低酸素)がグリオーマの治療予後に大きく関わっている」と仮説を立て、これを検証することである。 24年度では、C6ラットグリオーマモデルを樹立し、18F-FMISOを間隔をあけて投与することで低酸素領域の変化を描出するSequential PET撮像を試みた。microPET装置を使用することによって、18F-FMISOの低酸素領域への集積をPET画像として画像化することに成功した。しかし、このsequential PET法では、PETの解像度で認識できる領域の変化を認めることはできなかった。 次に低酸素ダイナミクスを標的とした治療法の開発に向けて、まず新規低酸素細胞標的放射線増感剤ドラニダゾールのC6ラット悪性脳腫瘍モデルに対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、ドラニダゾールがC6ラットグリオーマの血液脳関門の破綻を介して脳腫瘍内に到達すること、またX線照射との組み合わせにより、効果的な抗腫瘍効果の増感が得られることを明らかにした。 以上、これまでの実験により、低酸素ダイナミクスを追跡することは依然難しいが、microPET-CTを用いることで、ラットグリオーマ内の低酸素領域を描出することに成功し、この領域に効果的に作用する制がん剤の薬効評価を行うことが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は、腫瘍内の低酸素変動が悪性グリオーマの治療予後に大きく関わっていると仮説を立て、低酸素ダイナミクスの評価とそれに対する治療法を探索することである。この目的の達成のため、二ヵ年を通して、①ラットグリオーマの低酸素ダイナミクスを画像化する試みおよび②グリオーマに対する様々な低酸素標的治療の早期効果判定法の樹立を目指す。 24年度では、まず18F-FMISOを用いたsequential PET法により低酸素変動の検出を試みた。その結果、microPET-CTによりラットグリオーマ内の低酸素領域を鮮明に画像化することが可能となった。18F-FMISOの生体クリアランスと低酸素領域の変動周期との兼ね合いから、sequentialPETによる低酸素領域変動を検出するには至らなかった。従って、①に掲げられた目標が一部達成された。 一方で、低酸素を標的とした治療薬の候補として、新規ニトロイミダゾール系化合物であるドラニダゾールを取り上げ、その抗腫瘍効果を検討した。その結果、C6グリオーマ坦がんラットに処置することで、ドラニダゾールは血液脳関門の破綻を介して脳腫瘍内に取り込まれること、また放射線との組み合わせにより非常に強く腫瘍成長の抑制効果を示すことに成功した。この結果については、23年度中に、国際学術誌BMC Cancerに採択され、論文化された。低酸素ダイナミクスを標的とする治療の樹立に向けて、一部その目標が達成されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度の実験については、本課題の目的に沿って、まず18F-FMISOと123I-IAZAの2つの核医学トレーサーを時間差で投与するsimultaneous PET/SPECT法を試験する。これにより、sequential PETで成し得なかった低酸素変動のイメージングを試みる。次に、C6グリオーマモデルだけでなく、WHO悪性度分類において、RG2やF98といった異なるグレードの脳腫瘍モデルを作成し、その低酸素変動の強度を比較する。また病理学的検査による浸潤性・転移性を指標とし、イメージングで得られた結果を腫瘍悪性度と比較する。 またもう一つの目的である様々な低酸素標的治療の効果判定と効果的治療タイミングの検討についても引き続き行う。24年度の実験で有望な結果が得られたドラニダゾールについては、PET、SPECTによる非侵襲的なイメージングでの薬効評価を行う。また、その裏付けのため、組織切片上での間欠的低酸素領域の変化についても検討する。ドラニダゾールの他には、腫瘍の再酸素化を通して機能的な血管構築を誘導できると考えられている放射線の頻回照射やアバスチンなど血管新生阻害剤についても、腫瘍内酸素環境に与える影響を評価する。その上で、酸素以外の微小環境因子である糖代謝、細胞死ならびに細胞増殖などについて、それぞれの指標となるグルコーストランスポーター1(GLUT-1)、cleaved caspase3、Ki-67といったタンパク質発現を免疫組織化学にて検出する。さらに、上記、低酸素環境を標的とする治療が寛解率あるいは再発率といった予後に与える影響について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、初年度に予定していたPET/SPECT/CTによる低酸素ダイナミクスイメージングの確立が、SPECT製剤の準備が遅れたため遂行できなかった。そのため、予算計画に計上していた実験動物やSPECT製剤にかかる研究費を25年度に先送りする。 この次年度使用研究費の使途として、上記実験動物代、SPECT製剤にかかる費用、さらには得られた結果を裏付けするためのタンパク質発現評価のための抗体購入費として使用する。
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