研究課題/領域番号 |
24659556
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
櫻井 英幸 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50235222)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 量子ビーム |
研究概要 |
現代社会では,水銀,鉛,ヒ素,アルミニウム,カドミウムなどの有毒重金属が,環境または食物などから人体に摂取されており,さまざまな疾患の誘因となっている.また,亜鉛,アルミニウム等の微量金属がアルツハイマー病やパーキンソン病と関与している可能性や,がん化学療法ではプラチナを含む製剤が頻用されている.本研究は,マイクロビームを微細にスキャンする技術(大気マイクロピクシー)によって,細胞内の各種元素の分布を定量化し,がん,脳神経疾患,重金属病などの発生機序や治療効果発現カニズムを明らかにする ための診断法の開発を行う.①培養がん細胞の元素分布とプラチナ系薬剤感受性,薬剤耐性との関連性,②ヒト肺組織(手術標本)内の金属粒子の種類を検出し,病態との関連性,③脳変性疾患(剖検標本)の亜鉛,アルミニウムの分布と病態との関係性,に関して検討を行う.本研究により,がん化学療法における効果発現が予想できるようになるばかりでなく,肺組織の金属粒子の種類がわかるようになれば,吸入歴が証明され中皮腫などの将来の発がん性の予測が可能となる.脳疾患では,微量元素による病態のなりたちに迫れる可能性を秘めている.培養細胞を用いた抗癌剤の取り込みの研究では,微小プロトンビームにより核,細胞質の形態をきわめて明瞭に画像化することに成功している.また,標準物質の測定により,細胞内元素の可視化だけでなく定量化も可能となっている.本研究による期待される卓越した成果は,物理工学系から新たな医学生物学分野への応用,医工連携研究であること,体内の微量元素が可視化できるだけでなく定量化も可能であること,また,現代における難病(中皮腫,脳変性疾患)の科学的確定診断が可能となること,の3点が重要な点である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特定の元素の濃度と信号強度の定量的解析が可能なことは確認済みであるため,おもに培養細胞と実験動物を用いてシスプラチンの細胞内の取り込みに再現性があることを確認した.薬剤の細胞内取り込みの初期段階から,細胞内の拡散,核への集積,細胞形態の変化,細胞死のいろいろな段階で,プラチナとともにP,S,Cl,Kなどの常在する元素を画像化し,それぞれの元素の動きを定量化し,画像解析を行った.また,肺組織の測定に先立って,粒度分布測定用標準粉末,岩石標準試料,を用いて正しく測定が可能かどうかを確認した.一部の肺標本については,粉塵やアスベストの暴露肺,中皮腫などのヒト組織を用いて標本を作製し細胞や組織中の重金属の定性的,定量的解析を行った.
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今後の研究の推進方策 |
肺組織を用いて重金属の分布データをさらに取得するとともに,脳組織では,アルツハイマー病,パーキンソン病の剖検組織を用いてアルミニウム,亜鉛の分布を中心に検討する.解析に適当と思われるサンプルが入手可能な時点で標本を作製する.肺および脳組織では,信号の画像的なパターン解析を行い,元素の組成(何がどの割合で混合しているどのような形状のものか)を同定し,細胞内でのそれぞれの分布を解析する.
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品は,ほぼ現在の施設で実験が可能である.培養器具,実験動物などについては,信頼性のある実験結果を出すため,一年で約100万円の物品納入経費が必要と考えている.旅費に関しては,25年目の後半に,国際学会に発表,科学雑誌への投稿を行うため,30万円を計上した.
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