研究課題
放射性同位元素(RI)を用いる病気の治療(RI内用療法)は、RIによる内部被ばくを利用したもので、甲状腺がん、骨転移による疼痛緩和、悪性リンパ腫治療などに応用されている。これまで用いられているRIは、ヨウ素131、ストロンチウム89、イットリウム90、ルテチウム177など、いずれも専らベータ(β)による細胞障線作用に基づく。一方、アルファ線(α)は飛程が短く、高いエネルギーを与えるため、DNAを切断しやすく、細胞障害作用が強い。高LET(線エネルギー付与:単位長さ当たりに局所的に与えられるエネルギー量)を示し、ICRPでは放射線加重係数と、β線の20倍として計算されている。飛程が短いために、α線核種はこれまでのβ線核種に比べ、患者への副作用が少なく、治療効果が高いと期待される。実際、骨転移による疼痛緩和には、現在我が国ではストロンチウム89(半減期50日)が臨床応用されているが、欧米でα線核種であるラジウム223(半減期11日)によるRI内用療法で優れた臨床結果が報告された。いくつかのα線核種のうち、その生物学的性質、化学的性質、物理的半減期からラジウム223とアスタチン211が、臨床的に最も有用だと考えられた。そこで本研究ではα線による治療の基礎検討を行うとともに、欧米からの文献に基づいて臨床応用する場合を想定して我が国の法規制について検討した。治療に要する投与量はの場合、公衆への放射線影響は認められない。アスタチン211は半減期が7時間と短いが、加速器で製造できること、ヨウ素とよく似た化学的性質を有していることから、①褐色細胞腫の診断・治療に応用されるMIBG(Meta-iodo-benzyl guanidine)②放射性ヨウ素標識、イットリウム90標識可能な抗体を選択した。
2: おおむね順調に進展している
α線治療について、欧米では研究、臨床応用が活発に行われており、わが国でも基礎研究、臨床研究が急がれることが明らかとなった。α線治療の法規制、α線標識する化合物、抗体などの準備が順調に進んでいる。しかし製造されたアクチニウム211の本研究への利用はまだ着手できていない。
1)加速器を用いてアスタチン211を製造。アスタチン211による細胞障害作用をみる。大腸がんと反応する抗体をアスタチン211標識。得られたアスタチン標識抗体の安定性、対応する大腸がん細胞との結合率より、アスタチン標識方法の有効性を検討する。2)同じように悪性リンパ腫と反応する抗体をアスタチン211標識し、得られた標識抗体の細胞結合性から、標識方法を検討する。アスタチン211標識抗体と悪性リンパ腫細胞を混和し、悪性リンパ腫細胞の生存率から、本標識抗体の有用性を調べる3)上記大腸がん抗体、悪性リンパ腫抗体をイットリウム90で標識し、がん細胞との結合率、細胞障害作用などをみた研究結果をさらに検討。これまでのβ線放出イットリウム90標識抗体とα線放出アスタチン211標識抗体とを比較検討し、がん治療における有効性の基礎資料とする。4)褐色細胞腫の画像診断、治療に使われているMIBG(Meta-iodo-benzyl guadinine)のアスタチン211標識を検討する。5)α線利用の法的測面についてさらに検討する。
1)細胞培養に必要な化学試薬、放射性物質の購入2)欧米の学会におけるα線利用に関する資料の収集、情報交換
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