研究課題
肝細胞癌(HCC)は原因遺伝子が多様であり、HCC を体系的に理解し治療へ結びつけるためには、 エピジェネティック修飾異常に基づく発癌の理解が重要である。 本研究では、HCC 臨床検体を用いてHCC をiPS 細胞化することにより、エピジェネティック修 飾をリセットするという革新的手法に基づき、リセットしたHCC から分化誘導した肝臓系列細胞 (iHCC)において腫瘍形成能が失われるか検討する。エピジェネティック修飾のリセットにより腫 瘍形成能が失われるiHCC と、元のHCC の間でのエピジェネティック修飾状態を網羅的に解析することで、エピジェネティクスリセット による革新的肝発癌メカニズム解析を試みるものである。本年度はヒト肝癌細胞株であるHepG2細胞およびHuh7細胞を用いてiPS因子を導入したところ、iPS細胞に類似した形態のコロニーが出現した。それぞれ、20クローン程度iPS細胞様細胞を樹立し未分化マーカーであるSOx2および肝細胞マーカーであるHNF4の発現を解析したところ、いくつかのクローンにおいてHNF4の発現抑制が見られた。一方、Sox2についても親株のHepG2と較べ高発現するクローンが存在していたが、すでに樹立されている正常細胞由来iPS細胞と較べ発現が低かった。次にこれらのクローンを免疫不全マウス(NOD/SCID)の精巣に移植しテラトーマ形成を観察したが、形成された腫瘍はテラトーマではなかった。既存のヒト肝癌細胞株には数多く染色体異常が起こっていることが報告されていることから、未分化状態にリプログラムに必要な遺伝子を欠損しているか、未分化状態維持に必要な遺伝子が欠損している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
実験の進捗は順調であり、既にiPS細胞様細胞の樹立と機能解析を実施した。これは当初計画以上の進捗であった。一方、HepG2およびHuh7については機能的にiPS細胞様の未分化能を有する細胞を樹立するには至らなかった。しかしながら、本年度の検討から問題点が明確になったことから次年度へ向けた有用な情報が得られたと言える。
本年度の実績を踏まえ、次年度においては遺伝子変異が明らかとなっているマウス膵癌モデルを用いてiPS細胞様細胞の樹立を実施し、本法の有効性を示すと共に、他の肝癌細胞株での実施を行うことを計画している。
当初の予定より、消耗品が安価に購入できたため端数が生じ、翌年度に繰り越した。繰り越した研究費は翌年度研究費と合わせて、消耗品費として使用する。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 2件)
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