研究課題/領域番号 |
24659597
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
中谷 武嗣 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (60155752)
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研究分担者 |
山岡 哲二 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 部長 (50243126)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 移植・再生医療 / 人工臓器 |
研究概要 |
生体を構成している全ての細胞は、幹細胞より分化したものであり特異的な環境にて複数の刺激を受けることにより、適切なタイミング・部位にて様々な機能を有する細胞へと分化する。この多分化能を利用し、胚性幹細胞(ES細胞)または間葉系幹細胞、造血系幹細胞などを生体へと移植する再生医療法の開発が試みられ、心筋組織再生においても精力的な研究が進んでいる。特に、間葉系幹細胞(MSC)は、患者組織から容易に抽出可能で、倫理的な課題を回避できるために、再生医療への応用が注目されている。しかしながら、移植後における間葉系幹細胞から心筋細胞への分化効率は極めて低い。 我々は、従来とは異なる懸濁状態での心筋分化誘導法を見出し、自己拍動心筋分化を確認するに至ったが、その分化効率はやはり低い。近年、幹細胞培養マトリックスの柔軟性(弾性率)がMSCの分化特性に大きく影響することが見出された。そこで、我々の懸濁誘導法と、この弾性培養基材を組み合わせることで心筋分化誘導効率の向上を図る。基材の一般性を確認する意味でもMSCと同時に、よく知られるモデル細胞であるP19CL6細胞も用いて検討を進めた。 細胞培養基板は、I型およびIV型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ポリリシンをコートした弾性培養基材を用いた。培養開始後、2~30日において自律拍動細胞数を顕微鏡観察によりカウントする。この際、培養Dish底面にグリッドシール(格子サイズ: 1 mm2)を貼り、単位面積当たりの拍動細胞を計測した。透過光では拍動細胞の確認が困難であったことから、Caキレート蛍光イメージング技術により、拍動細胞の可視化を行って評価した。カチオン性基材上で優位な拍動細胞数(コロニー数)の向上が認められた。血清等からのタンパク質の吸着特性が介在している可能性もあることから、次年度詳細なメカニズム解明を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
間葉系幹細胞の拍動細胞(拍動心筋)への分化効率が低いことは古くから知られている 。本プロジェクトでは、懸濁分化誘導法と、その後の培養基材特性の相互作用によって、その効率を向上させる試みを進めてきた。これらの手法の有用性が一般的であるかを確認し、さらに、拍動心筋細胞への分化を明確に検討するために、MSCに加えて、心筋分化研究のモデル細胞としてよく知られているP19CL6細胞を用いて研究を進めたことにより、培養基材が拍動細胞出現効率に与える影響を明確にすることができた。さらに、これまで、透過光顕微鏡下で拍動コロニーを確認してきたが、コロニー中の一部の細胞のみが拍動していることも明らかとなり、更に正確にこれらを確認する新たな手法として、細胞内Ca濃度蛍光プローブを用いて拍動細胞のみを追跡することが可能となった。これらの点は、予定よりも大きな達成度と判断している。一方で、これらの手法を用いてもMSCの拍動細胞への分化効率は、高いものでは無く、このことを併せて考慮して、このように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
弾性の異なるゲル(1 ~20 kPa)を作成し、そのゲル表面にマトリクスタンパク質をコートした培養基板を作成する。具体的には、濃度および加工構造と密度の異なるポリアクリルアミドゲルまたはゼラチンゲルを作成し(山岡)、その表面上に平成24年度 (a) に最適化した基板表面のマトリクスタンパク質をコートする。(a)と同様に、自律拍動する心筋細胞の数および拍動期間の評価、心筋マーカー発現の経時変化から、自律拍動する心筋細胞の大量培養に適した培養基板表面の弾力性を最適化する。このステップにおいて、マトリクスタンパク質の組成と基板表面の弾力性の最適な組み合わせを見出す。 また、インテグリンを介したシグナル伝達メカニズムを解明する。インテグリンを介したシグナル伝達は、接着斑の形成やストレスファイバーの形成と相関することから、各基板表面が接着斑やストレスファイバーの形成に与える影響に注目する。特に初期段階では、蛍光免疫染色法により、細胞膜表面上における各種インテグリンや接着斑の形成に関わるタンパク質(タリン、ビンキュリン など)の分布を観察する。更に、インテグリン阻害モノクローナル抗体や接着斑からのシグナル伝達に関与するリン酸化酵素(Focal adhesion kinase)に対する阻害剤であるTAE226を活用し、各培養基板表面の特性がインテグリンを介したシグナル伝達機構へ与える影響を明らかにする(中谷)。また、これらを人工的に模倣再構築するのみならず、さらに高い活性を有する培養基材を構築する(山岡)
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は、ほぼ計画通り研究が進行した。その結果、執行額もほぼ予定通りとなり端数として生じた44905円を次年度に使用することとなった。この予算は、次年度の一般消耗品の購入に充てる。
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