研究概要 |
非癌細胞HEK293細胞とヒト胎児肺線維芽細胞MRCにKRAS変異を導入し、コントロールと比べ発現の低下する複数のmiRNAをmiRNA arrayによって抽出した。変化倍率の大きいものと、Target ScanによってRAS-RAF-MAP kinaseの分子への結合配列をもつもの含めた7つの候補miRに絞られた。RASの下流の二つのシグナル伝達系RAF-MEK-ERK-SRE、JNUK-AP1を抑えるmiRNA X, Yはいずれもシグナル抑制レベルに応じた抗腫瘍効果を示した。 特にmiRNA Xの抗腫瘍効果は強力であり、マウス担癌モデルでも全身投与による治療効果が確認された。そのメカニズムとしてKRAS下流シグナルのみならず、AKT分子のcoding regionに直接結合して翻訳抑制するというユニークかつ強力な作用を見出した。そのため、RAS-RAF-MAPKを抑えるMEK1 siRNAやMEK2 siRNAと比べてもより強い抗腫瘍効果を認めた。学会、論文発表は2014年以降となるが、miRNA X, Yの二つのmiRは大阪大学に発明承継され、国内特許を出願した。 miR XはKRAS変異細胞株、BRAF変異細胞株では発現抑制状態にあり、また大腸癌組織サンプルでも正常よりも癌で低下、癌の中ではKRAS wild型よりもKRAS mutant型で発現低下しており、KRAS/BRAF変異大腸癌は自己にとって不都合なmiRNA Xを抑制するメカニズムを備えているようである。外来性にmiRNA Xを投与するとこのバランスが崩れ、KRASの3`-UTRとAKTのcoding 配列に結合し、増殖抑制とアポトーシスの激しい亢進とが相俟って癌細胞を著しく抑制することが明らかとなった。 当初の計画通りに研究は進み、得られた結果は癌治療に応用できるたいへん意義深いものであった。
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