肛門に近い下部直腸癌に対する肛門温存手術では、術後の機能低下が問題となる。本研究では、患者自身の脂肪組織から脂肪幹細胞を抽出し、肛門機能を担っている平滑筋を再生させる研究である。 平成24年度;ラットにおける脂肪組織由来幹細胞の採取・培養実験;in vitroにおいて脂肪組織由来幹細胞の存在を確認した。ラットから脂肪組織由来幹細胞を精製分離してコントロール培地内で増殖させ、これをフローサイトメトリーにてCD34、CD44、CD90を測定し、脂肪由来幹細胞の存在を確認することができた。 平成25年度;ラット排便機能障害モデルの作製・脂肪由来幹細胞移植実験;ラットによる排便機能障害モデルを作製した。ラットを全身麻酔下に尾部の所より切開を加え、肛門括約筋の切除を行ったモデルを作製。直腸内に内圧測定用のトランスデューサーを挿入して肛門内圧を測定したところ、約4週間の長期にわたって肛門内圧の低下を認めた。続いて、このモデルの肛門括約筋切除部に脂肪由来幹細胞を注入し、肛門内圧の改善を観察した。また、ラットを犠牲死させ、肛門周囲組織の病理組織学的に検討したところ、繊維組織の増勢を認めた。 平成26年度;脂肪幹細胞投与法の検討・再生組織の検証;脂肪幹細胞を組織に高率よく生着させるため、脂肪幹細胞シートを用いた移植を行った。また、雄性ラット由来の細胞を雌性ラットへ移植して組織学的に検証したが、Y染色体の存在は認められなかったが、肛門機能は再生しておりレシピエント自体の組織が増勢したものと結論づけている。
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