研究課題
近年の大腸癌術後化学療法の進歩、特に抗EGFR抗体薬の登場により生存期間が著明に伸びた。しかし分子標的薬の効果は個人差があり、また高価であるため、事前に効果予測による投与対象の選別が必須である。現在の効果予測はKRAS遺伝子の変異の有無で判断しているが、それだけでは不十分である。そこで、本研究では、薬剤感受性の異なる大腸癌細胞株および大腸癌手術組織を用いて、最先端のリン酸化プロテオミクス技術による網羅的なリン酸化タンパク質の解析を行い、新規薬剤効果予測バイオマーカーの同定および定量法の確立を目的とした。平成24年度は、iTRAQ法とリン酸化ペプチド濃縮法を組み合わせた網羅的リン酸化タンパク質比較定量法を確立した。また、安定同位体標識内部標準ペプチド添加することで、特定のタンパク質リン酸化修飾レベルをSRM/MRM法で定量する技術開発を行った。特に、細胞内主要シグナルを担うキナーゼに着目し、その活性化レベルのSRM/MRM測定のための検討を行った。400種類弱の活性型リコンビナントキナーゼをLC-MS/MSで解析し、そのMS/MSデータからSRM測定パラメータリストを作成した。大腸癌培養細胞株24種類を抗EGFR抗体薬感受性株、耐性株に分類し、それら細胞株についてキナーゼ活性化状態のプロファイリングを進めた。抗EGFR抗体薬耐性株ではMekやAktの活性化が検出でき、これらの結果はキナーゼ活性化レベル測定が抗EGFR抗体薬の効果予測に有用であることを示唆した。また、細胞株の解析から得られた薬効予測マーカーの検証に用いる大腸癌切除標本の収集を行える耐性を整えた。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は主にリン酸化プロテオミクス解析の技術開発に取り組んだ。網羅的解析法はすでに確立し、ターゲットを絞ったリン酸化タンパク質のSRM/MRM法も測定系はほぼ完成した。大腸癌培養細胞株の解析に関しては、24種類の抗EGFR抗体薬感受性試験を終え、感受性株と耐性株に分類できた。また、薬剤感受性に関与することが知られている既知のシグナルの変動も予想どおりの結果が得られた。この系を用いることで、今年度中に薬効予測バイオマーカーの同定が達成できると期待される。
昨年度検討した抗EGFR抗体薬感受性株群と耐性株群に対して、薬剤処理前後で網羅的リン酸化タンパク質の解析を行い、変動するリン酸化タンパク質を比較する。その解析で得られた結果から、薬剤感受性に関与するリン酸化シグナルについて検討する。同時に、細胞内主要シグナルを担うキナーゼのリン酸化活性化レベルのSRM/MRM測定系を確立させ、網羅的解析の結果と合わせて、薬効予測バイオマーカーを絞り込む。細胞株の解析で得られたバイオマーカー候補リン酸化タンパク質の検証を大腸癌組織を用いて行う。抗EGFR抗体薬を投与された大腸癌症例のうち、薬剤感受性群と耐性群を予測できるリン酸化タンパク質を抽出する。さらに、それらのバイオマーカー候補タンパク質が薬剤耐性に関与しているかどうか調べる。そのために、大腸癌薬剤感受性株、耐性株のタンパク質発現量を増減させた際に薬剤感受性が変化するか検討する。
細胞培養に必要な、培養液や血清、リン酸化プロテオミクス解析に必要な試薬、SRM/MRM解析に必要な安定同位体標識ペプチド等の消耗品の購入に充てる予定。
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J Proteome Res.
巻: in press ページ: in press
巻: 11 ページ: 5311-22
10.1021/pr3005474
http://www.nibio.go.jp/proteome/index.html