生体吸収性ステントと生体瞬間接着剤を利用した新しい血管吻合法の開発が本研究の目的である。従来の用手的直接縫合法と比較して遜色ない手術時間や止血性、吻合箇所の十分な強度を確保する事で、これまで臨床的に実現していない大血管や腫瘍分枝に対する接着血管吻合法の確立を目指す。将来的には血管外科手術の成績向上や外科治療困難例に対する手術適応の拡大を目標とする萌芽的研究である。 当該年度は研究期間最終年度であり、前年度のex vivo実験系で実証した吻合を実際にビーグル犬の腹部大動脈に応用して、以下に述べる手法を用いて吻合部位の耐久性や抗血栓性について評価した。 全身麻酔下に気管内挿管した成犬ビーグルの腹部大動脈を露出し、全身ヘパリン化の後に腎動脈下および腸骨動脈分岐部上で遮断して中央を離断。生体吸収性ステントを内挿した後に断端を引き寄せ、外膜の血液を除去してからシアノアクリレートを用いて接着した。22G針を用いて空気抜きの後に遮断解除して止血状況を確認した。コントロール群については大動脈離断の後に7-0ナイロン糸で連続縫合を行い、フィブリン綿で止血を行ったものを用いた。 術後大動脈の血管径は超音波での計測で5-7mmを維持しており、コントロール群は6ヶ月以上の開存が確認された。一方生体吸収性ステントとシアノアクリレートを用いた接着吻合群では全例で術後1週間以内の急性ステント内血栓閉塞を生じて死亡した。抗血小板剤の内服やヘパリンやワーファリン等の抗凝固剤を併用したが、ステント内血栓の予防には至らず、非常に不本意ながら本研究期間内に目標を達成する事ができなかった。
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