研究課題/領域番号 |
24659629
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥村 明之進 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40252647)
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研究分担者 |
南 正人 大阪大学, 医学部附属病院, 准教授 (10240847)
井上 匡美 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10379232)
澤端 章好 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50403184)
中桐 伴行 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70528710)
新谷 康 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90572983)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 再生医療 / 肺気腫 / アディポネクチン / 重症呼吸不全 / 細胞治療 |
研究概要 |
現代医療の限界である重症臓器不全に対する治療としては、臓器移植置換型治療が最も有効である。しかしながら脳死ドナー数は限られており、脳死体からの臓器移植の機会は未だ数少ない。近年、肺気腫をはじめとする閉塞性換気障害の患者は増加しており、2020年には全世界の死亡原因の第3位になることが予測されている。したがって慢性呼吸不全に対する新たな治療戦略の構築が必要である。我々は慢性呼吸不全に対する治療手段の可能性の一つとして再生医療に注目してきた。その結果、(1) ラットを用いた左肺全摘モデルにおける代償性肺再生には肝細胞成長因子 HGFが関与していること、(2) ラット肺気腫モデルにおいてHGFの外的補充が肺胞・肺血管の再生をもたらすこと、(3)肺気腫モデルにおいて肺容量減少手術に脂肪組織由来幹細胞を投与することで肺胞が再生すること、を明らかにした。このように、動物実験レベルでは肺再生医学の可能性を証明してきたが、肺実質へどのように再生因子を誘導するかなどの問題から、いまだ臨床応用には至っていない。当院内分泌代謝内科が同定した脂肪細胞特異的発現蛋白であるアディポネクチンが心筋再生機能を有し、また呼吸器内科がCOPD の病因にアディポネクチン発現の低下が関連することを報告した。今後、アディポネクチンなどの新規肺胞再生因子の候補を探索し、効率的な投与法を検証することを目的として、COPD肺を対象とした肺再生医学にチャレンジすべくアディポネクチンによる肺再生研究を企画した。現在、COPDモデルマウス実験を通して、アディポネクチンの安全な投与・補充法、投与効果を解析中である。また同時に、われわれ肺移植実施施設として診療にあたる重症呼吸不全患者の血清や手術で得られた生体材料におけるアディポネクチン発現を解析し、学会発表・論文発表をおこなっていく方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
① HGF、アディポネクチンを用いて肺胞再生に適した条件を検討し、②脂肪組織由来幹細胞を用いて肺胞再生因子産生細胞シートを作成する。③さらに動物モデルにおける肺胞再生因子産生シートの局所貼付の治療効果を動物モデルで検証して、新たな肺再生法を提唱することを目的に研究をすすめてきた。 肺胞再生因子産生細胞シート作成に関しては、心臓外科と共同で開発し、実際にHGF、アディポネクチンを産生する細胞種の採取、分化誘導法を確立した。実際には、初代培養した細胞を温度応答性培養皿Upcell(Cellseed社)に播種し、10~12日後、インスリン、デキサメタゾンなどの添加による分化誘導を行い、細胞由来幹細胞とする。20日後、Upcellを20℃で1時間インキュベートすることで細胞をシート状に回収している。同シートを全身麻酔、人工呼吸下のマウスを開胸し、COPD誘導マウスやアディポネクチン・ノックアウトマウスの気腫肺に貼付した。現在、貼付による組織学的変化、呼吸器のう変化を解析しているが、マウス個々の変化が分散しており、さらに検体数を増やしって解析することが必要であると考えている。さらに、肺表面への貼付だけでなく、アディポネクチンを生体内で誘導する薬剤についても、内分泌代謝内科と検討、実践していくことで、効果をさらに高める努力をおこないたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後、COPDマウスの検体数を増加させ、安定した呼吸機能の変化・改善を示す必要がある。とくに、COPD誘導マウスでは、個々のばらつきが大きく、シート貼付による効果が安定していないことが問題であり、手技的な改善を行っていく。 さらに、ラットモデルへの細胞シートの局所投与を実施する。移植後に2地点で呼吸機能検査を実施、CO2の過剰麻酔により処分し組織を採取し解析を行う。必要に応じて地点を増やす。また解析の途中で予定していた匹数に達しなくても有意な差が得られた場合、適宜使用匹数を減らす。また動物イメージング装置によって、CTによる肺評価、肺血流をシンチグラムによって測定、細胞シートの効果を検証する予定である。 さらに、当研究室と共同研究者らが保有する世界最新鋭のイメージングシステム(動物専用Micro-CT、超偏極129Xe-MRI、in vivo蛍光・定量トモグラフィ、Two-photon Microscopy)を駆使して(マルティモダリティー法)、ミクロとマクロのレベルでリアルタイムに検証する全く新しいCOPD評価法を構築する。本研究では生体内(肺内)での生きた細胞動態を解明するために、二光子励起顕微鏡を用いて生きた肺内を高い時空間解像度で観察する方法を開発し、COPDの主要担当細胞であるマクロファージの動態の可視化を試みる。本イメージング技術における世界の第一人者である石井優教授の協力を得て、移植した肺胞上皮の動態(生存・分化)や拒絶反応をみるうえで有用であり世界初の試みである。これらの手技を用いて、アディポネクチン細胞治療の効果を解析していく方針である。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養、DNA・RNA発現測定のためのPCRシステム、ELISAシステム、タンパク発現解析、免疫組織染色、細胞移植、細胞シート作成を行うための消耗品(細胞培養液、シャーレ、実験動物、手術器具等)および、マウス、ラットの飼育費用が必要である。また、生体イメージング装置使用料の他、学会発表、論文発表に関係する経費が必要である。
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