研究概要 |
膠芽腫細胞におけるDNA損傷応答関連蛋白の発現とその細胞内局在を解析するために、最初の段階として手術標本を用いて膠芽腫組織におけるDNA損傷応答関連蛋白の発現を免疫染色を用いて評価した。評価に用いたDNA損傷応答関連蛋白としてATM, ATR, DNA-PK, などの「感受」群、MDC1,NBS1, 53BP1, BRCA1などの「仲介」群、CHK1, CHK2などの「作動」群に属する分子の発現を解析した。その結果感受群の中でATM, ATRについては60-70%の症例で、DNA-PKではすべての症例で核に発現が認められた。MDC1,NBS1, 53BP1の仲介群についても全例で核に強い発現が認められた。しかし、BRCA1については腫瘍細胞には発現が認められず、reactive-astrocyteにのみ発現が検出できた。一方、CHK1については膠芽腫組織では活性化が認められず、CHK2は60%の症例で活性化されていた。DNA2本鎖切断のマーカーであるγ-H2AXの発現についても解析を行ったところ、腫瘍細胞全体でびまん性に発現が認められた。これらの結果から膠芽腫組織では内在性にDNA損傷が引き起こされており、損傷応答システムが恒常的に活性化されていることが示唆された。 次に膠芽腫培養細胞を用いて放射線照射によるDNA損傷応答関連蛋白の誘導の有無を解析した。実験には通常の血清条件で培養されたU87, T98G, LN229, KNS42, KNS81の5つの細胞株を用い、放射線照射15分、60分、24時間後の段階での蛋白発現をウェスタンブロットにより解析した。その結果、ATM, ATM,MDC1,NBS1, 53BP1などについては放射線照射による誘導がはっきりせず、RAD50でのみ24時間後に発現が認められた。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は膠芽腫腫瘍幹細胞を用いた研究を推進する。具体的には細胞にそれぞれのDNA損傷誘発刺激を加え、どのようなDNA修復機構が活性化されているかをコメットアッセイ法で解析する。この方法ではDNA一本鎖修復か二本鎖修復のどちらが起こっているかを区別することができるため、どのDNA修復経路が重要な役割を果たしているかを解析できる。またDNA損傷応答関連蛋白の発現誘導とその発現調節メカニズムについての研究を推進する。特にDNA損傷応答蛋白の機能制御を解明する目的で、損傷応答蛋白のリン酸化だけではなく、SUMO化やユビキチン化についても特異抗体を用いて解析する。我々はDNA損傷応答蛋白の翻訳後修飾により修復、細胞周期停止、細胞死のどちらの経路に誘導されるかが制御されているのではないかと仮定しているため、治療的な観点からDNA損傷により細胞死が特異的に誘導されるシグナル伝達機構の解明が必要と考えている。 さらに本年度はDNA損傷応答をターゲットにした新たな治療を確立するために、DNA損傷応答を阻害する薬剤を併用した坑腫瘍効果の検討を行う。具体的には英国アストラゼネカ社から供給されたATM,DNA-PKに対する特異的阻害薬KU55933(ATM),NU-7441(DNA-PK)を併用した治療により治療耐性が克服できるか、また従来の抗癌剤、放射線治療の感受性増強作用があるかを検討する。
|