研究概要 |
本年度はグリオーマ組織において放射線のみならず化学療法に対する抵抗性を規定する要因と考えられているATM/Chk2 シグナル伝達系変異の意義を解析するための研究を行った。グリオーマ症例82例(DA:7例、AA:7例、O:7例、AO:9例、GBM:52例)を対象とした。解析したDNA損傷応答シグナル伝達分子は、DNA損傷を感知する「感受」群に属するATM, ATR, DNA-PK、損傷シグナルを伝達する「仲介」群であるH2AX, MDC1,NBS1, 53BP1, BRCA1、そしてDNA修復、細胞周期停止、細胞死などを引き起こす「作動」群に属するChk1, Chk2である。ATM, ATR, DNA-PKの発現に関してはreal time RT-PCR法を用いてmRNAの発現解析を行った。その他の分子については、活性型リン酸化分子も含めて免疫染色により評価した。これらの発現解析の結果と当院で行っている遺伝子解析、臨床予後との相関についても検討した。その結果ATMのmRNA発現は悪性グリオーマにおいて有意に低下していた。免疫染色による解析ではリン酸化H2AX, MDC1, 53BP1等はグレードによらず腫瘍細胞の核がdiffuseに陽性であった。p-ATM、p-Chk2の発現はGBMではそれぞれ20%, 60%の症例で認められた。興味深いことにp-ATMが発現しているGBM症例では有意に生存期間が長かった。以上の結果はATMはグリオーマにおいて癌抑制遺伝子としての機能を有していると推測される。特に悪性グリオーマではATM/Chk2 シグナル伝達系の変異が治療抵抗性の一因になっている可能性が考えられ、今後の新たな治療標的になると考えられた。
|