研究課題/領域番号 |
24659657
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
戸田 正博 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (20217508)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脳腫瘍幹細胞 / 免疫療法 / 免疫抑制 / グリオーマ |
研究概要 |
癌幹細胞は様々な免疫抑制分子を産生し、腫瘍局所における免疫抑制環境を構築すると考えられているが、その詳細は明らかでない。本研究では、第一に脳腫瘍幹細胞(brain cancer stem cell; BCSC)が産生し、強力な腫瘍免疫抑制作用を有するVEGFに着目して、グリオーマの免疫学的微小環境およびBCSCによる腫瘍免疫抑制・抵抗性の解析を行う。さらにVEGFは腫瘍血管新生作用を有する機能分子である。そこで本研究では、極めて難治性のBCSCに対する治療法を開発するため、VEGF阻害(腫瘍免疫抑制の制御作用および腫瘍増殖・腫瘍血管新生の抑制作用)による、新たな免疫療法の有効性を検討する。 本年度はグリオーマ細胞、BCSC、およびグリオーマ組織における免疫抑制性因子であるVEGF/VEGFRに着目して発現解析を行った。はじめに悪性グリオーマ組織におけるVEGFおよびVEGFRの発現と、血管内皮細胞抗原であるとCD34との発現を比較解析したところ、CD34は腫瘍内と腫瘍辺縁部において同等な発現を示したのに対して、VEGFRは腫瘍内での発現が高く腫瘍辺縁部での発現は低かった。また、VEGFはグリオーマ細胞の4/5、BCSCにおいて4/6の細胞で高発現しており、さらにVEGFRに関してもグリオーマ細胞の3/5、BCSCの3/6の細胞において発現が認められた。以上の結果から、グリオーマおよびBCSCは免疫抑制因子であるVEGFを産生し、腫瘍辺縁部と比較してとくに腫瘍内血管内皮細胞にシグナル伝達するパラクライン機構が存在すること、さらに腫瘍細胞自身にもシグナル伝達するオートクライン機構を有する可能性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であるBCSCの免疫学的微小環境に関与する免疫抑制分子を同定し、さらにBCSCおよびグリオーマにおける新たな免疫抑制機構の存在を明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
①ヒトBCSCによる免疫抑制・抵抗性の解析:我々が樹立した複数のヒトBCSC株を用いて,in vitroにおける免疫抑制性因子の発現・産生の解析を行う。コントロールとして、グリオーマ細胞およびBCSCから血清で分化誘導した腫瘍細胞を用いて比較検討する。また、ヒトBCSCと末梢血単核球との共培養による、免疫抑制性細胞の誘導能をコントロールと比較解析する。 ②VEGF阻害によるヒトBCSC 免疫抑制の制御効果の解析:VEGF阻害抗体を用いて、in vitroにおけるBCSCによる免疫抑制分子の発現および免疫抑制性細胞の誘導能の制御効果を解析する。さらに、実際にVEGFRワクチンが施行された患者血清における免疫抑制性因子の発現・産生を経時的に解析する。 ③BCSCモデルにおける免疫抑制分子の発現解析:in vivoにおけるBCSCによる免疫抑制を解析するため、マウス由来神経幹細胞にがん遺伝子を導入して誘導されたBCSCの脳内移植モデルを作成し、マウス脳内免疫抑制分子の発現解析を行う。コントロールとして正常脳組織、BCSCを血清で分化誘導した腫瘍細胞を脳内移植したモデルの脳組織との比較検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、グリオーマおよびBCSCが免疫抑制因子であるVEGFを産生し、おもに腫瘍内の血管内皮細胞にシグナル伝達するパラクライン機構のみならず、腫瘍細胞自身にもシグナル伝達するオートクライン機構の存在を明らかにした。そこで、次年度は我々が樹立した複数のヒトBCSCのin vitroにおける免疫抑制・抵抗性について、コントロールとなるグリオーマ細胞およびBCSCから血清で分化誘導した腫瘍細胞との比較解析を行う。具体的には、免疫抑制性因子として、VEGF以外にTGF-β,IL-10, IL-6, PGE2, PD-L1などの発現・産生についてコントロールと比較解析する。また、ヒトBCSCと末梢血単核球との共培養による、免疫抑制性細胞(FoxP3陽性制御性T細胞、高IL-10産生性寛容性樹状細胞)の誘導能をコントロールと比較解析する。さらに、VEGF阻害による 免疫抑制の制御効果について、VEGF阻害抗体を用いて、in vitroにおけるBCSCによる免疫抑制分子の発現および免疫抑制性細胞の誘導能の制御効果を解析する。また、VEGFRワクチンが施行された患者の抗腫瘍効果と免疫抑制制御との関係を明らかにするため、MRI画像と患者血清における免疫抑制性因子の発現・産生を経時的に解析する。 繰越額が生じた理由:効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品などの購入に充てる予定である。
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