研究課題/領域番号 |
24659657
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
戸田 正博 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (20217508)
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キーワード | 脳腫瘍幹細胞 / 免疫療法 / 微小環境 |
研究概要 |
癌幹細胞は様々な免疫抑制分子を産生し、腫瘍局所における免疫抑制環境を構築すると考えられているが、その詳細は明らかでない。本研究では、第一に脳腫瘍幹細胞(brain cancer stem cell; BCSC)が産生し、強力な腫瘍免疫抑制作用を有するVEGFに着目して、グリオーマの免疫学的微小環境およびBCSCによる腫瘍免疫抑制・抵抗性の解析を行う。さらにVEGFは腫瘍血管新生作用を有する機能分子である。そこで本研究では、極めて難治性のBCSCに対する治療法を開発するため、VEGF阻害(腫瘍免疫抑制の制御作用および腫瘍増殖・腫瘍血管新生の抑制作用)による、新たな免疫療法の有効性を検討する。 これまで本研究では、グリオーマ細胞、BCSC、およびグリオーマ組織において、免疫抑制性のVEGF/VEGFR系が高頻度に発現していること、グリオーマ、BCSCが産生するVEGFが、血管内皮細胞にシグナル伝達するパラクライン機構のみならず、腫瘍細胞自身にもシグナル伝達するオートクライン機構が存在する可能性を明らかにした。また、悪性グリオーマ組織においてVEGFRは、腫瘍辺縁部と比較して腫瘍内で高発現していることから、低酸素状態によるVEGF/VEGFR系の発現誘導が示唆された。さらにVEGFR1/VEGFR2ペプチドワクチンが施行された患者血液を用いて、ワクチン投与前後のVEGFR特異的細胞傷害性T細胞の誘導に関する解析を行ったところ、ワクチン後にVEGFR1特異的細胞傷害性T細胞がほぼ全例で誘導されていること、一方、VEGFR2特異的細胞傷害性T細胞の誘導は一部の患者で認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BCSCの免疫学的微小環境に関与する免疫抑制分子であるVEGF/VEGFR系を同定し、脳腫瘍患者におけるVEGF/VEGFR系の関与およびVEGFRワクチン後の免疫学的変化を明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
・VEGFおよび腫瘍抗原ワクチンによる 免疫抑制の制御効果の解析 VEGFおよび腫瘍抗原ワクチンによる免疫抑制分子の発現変化および免疫抑制性細胞の誘導能の制御効果を解析する。具体的にはVEGFRワクチンおよびVEGFRおよび腫瘍抗原ワクチンが施行された患者リンパ球および血清における免疫抑制性因子の発現・産生を経時的に解析する。 ・BCSCモデルにおける免疫抑制分子の発現およびBCSC 免疫抑制の制御効果の解析 in vivoにおけるBCSCによる免疫抑制を解析するため、マウス由来神経幹細胞にがん遺伝子を導入して誘導されたBCSCの脳内移植モデルを作成し、マウス脳内免疫抑制分子の発現解析を行う。コントロールとして正常脳組織、BCSCを血清で分化誘導した腫瘍細胞を脳内移植したモデルの脳組織との比較検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
効果的に物品調達を行った結果であり、次年度の研究費と合わせて試薬・消耗品などの購入に充てる予定である。 VEGFRワクチンが施行された患者の抗腫瘍効果と免疫抑制制御との関係を明らかにするため、経時的にMRIおよびCT画像と、患者リンパ球および血清における免疫抑制性因子の解析を、今後も継続的に実施するために研究費を使用する。またVEGFRワクチン投与によるヒト検体解析と平行して、マウスモデルにおいて、VEGF阻害による免疫抑制の制御効果について解析などの実施に必要な経費として、研究費を使用する。
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