癌幹細胞は様々な免疫抑制分子を産生し、腫瘍局所における免疫抑制環境を構築すると考えられているが、その詳細は明らかでない。本研究では、第一に脳腫瘍幹細胞(brain cancer stem cell; BCSC)が産生し、強力な腫瘍免疫抑制作用を有するVEGFに着目して、グリオーマの免疫学的微小環境およびBCSCによる腫瘍免疫抑制・抵抗性の解析を行う。さらにVEGFは腫瘍血管新生作用を有する機能分子である。そこで本研究では、極めて難治性のBCSCに対する治療法を開発するため、VEGF阻害(腫瘍免疫抑制の制御作用および腫瘍増殖・腫瘍血管新生の抑制作用)による、新たな免疫療法の有効性を検討する。 これまで本研究では、グリオーマ細胞、BCSC、およびグリオーマ組織において、免疫抑制性のVEGF/VEGFR系が高頻度に発現していることを明らかにした。また、再発悪性神経膠腫8症例に対してVEGFR1/VEGFR2ペプチドワクチン療法を施行し、重篤な有害事象なく2例の不変(stable disease: SD)が得られた。ヒストリカルコントロールと比較して、VEGFR1/VEGFR2ペプチドワクチンにより生存期間の延長傾向が認められた。ワクチン投与前後のVEGFR特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の解析(6症例)を行った結果、ワクチン後にVEGFR1特異的CTLが6例中6例、VEGFR2特異的CTLの誘導は6例中2例で誘導されていた。また、血清中sVEGFR2のELISA解析(8症例)を行ったところ、ワクチン後に8例中4例で低下していた。以上、本研究によりVEGF阻害(腫瘍免疫抑制の制御作用および腫瘍増殖・腫瘍血管新生の抑制作用)による新たな免疫療法の有効性が示唆された。
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