研究課題/領域番号 |
24659663
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
乾 洋 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60583119)
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研究分担者 |
伊藤 英也 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (30436464)
武冨 修治 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70570018)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 関節病学 |
研究概要 |
本研究の目的は、変形性関節症の根本的治療法を目指し、変形性関節症発症の原因とされる軟骨基質分解酵素の誘導を可視的に判定できる細胞システムを樹立し、それを用いて新規軟骨基質分解酵素誘導因子を同定することである。さらに同定された遺伝子の中から治療ターゲットとなりうる分子を選択しその機能解析を行うことで軟骨変性の抑制薬開発の創生のための基礎的知見を得ることを目指している。軟骨基質分解酵素誘導モニタリングシステムの構築と新規誘導因子の同定するために以下のことを行った。軟骨基質分解酵素として、ADAMTS5に着目し、そのプロモーター解析を行った。ヒト、サル、マウスなどデータベースで利用可能な生物種におけるプロモーター領域をcomparative mapping により相同性を調べ、種間でより高度に保存された領域を抽出した。この 下流に蛍光レポーターをつないだコンストラクトを作成し、このレポーターコンストラクトを軟骨細胞前駆細胞株ATDC5 に安定導入した後、インスリン刺激や炎症サイトカイン刺激で基質分解酵素の発現を誘導して、基質分解酵素の発現と蛍光が一致するクローンを選別する方法を試みたが、上手くいかなかった。そのため、プロモーター解析として、ルシフェラーゼアッセイを用いた手法を行った。具体的には、同定されたプロモーター領域における、既知の転写因子の結合モチーフを調べ、モチーフを有する転写因子に候補をしぼり、これらを用いてADAMTS5を強く転写制御する因子を同定した。同定された転写因子の機能解析をin vitroで強制発現、抑制系の解析を行った。さらに、遺伝子改変マウスを用いて、変形性関節症の発症に与える影響について検討した。研究成果については、国内学会で報告し、今後、国際学会でも報告予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軟骨基質分解酵素誘導モニタリングシステムの構築と新規誘導因子の同定に関しては、有効な実験系の確立には至らなかったが、軟骨基質分解酵素のうち、ADAMTS5に着目し、そのプロモーター解析を通じて、一つの転写因子が強くADAMTS5を転写誘導することを解明した。この転写因子について、in vitroでATDC5,SW1353などの軟骨細胞株を用いて、強制発現、抑制系の解析を行い、ADAMTS5の誘導能について機能解析を行った。さらに、 ex vivoの系においても、遺伝子改変マウスから採取した大腿骨頭を採取して、explant cultureの系で、IL1αによる軟骨基質の分解が、同定された転写因子をノックアウトすることで、抑制できることを解明した。現在、この遺伝子改変マウスを用いて変形性関節症に与える影響について解析を行っており、一定の傾向をもった結果が得られており、さらなる解析を進めていく予定である。さらに、この転写因子のかかわるシグナルの阻害剤を用いて、変形性関節症の進行に与える影響について解析を行っている。今年度の研究は、軟骨基質分解酵素の誘導因子を同定する本研究の目的の一部を達成できていると考えている。しかし、当初の実験系の構築が上手く進まなかったため、今後の解析が必要であると考えている。さらに、ほかの軟骨基質分解酵素の誘導因子に関する検討を今後行っていく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ADAMTS5に着目し、同定された転写因子の解析をin vitroおよびin vivoで引き続き行い、その治療効果の検討も進めてい行く予定である。さらに当初から予定している軟骨基質分解酵素誘導モニタリングシステムの構築と新規誘導因子の同定として、ADAMTS5だけでなく、ほかの軟骨基質分解酵素誘導モニタリングシステムの確立を行う。次に、この細胞システムにヒト正常関節軟骨と変形性関節症関節軟骨を起源とするcDNA からそれぞれ作成したレトロウィルスライブラリーを導入し発現クローニングを行う。その中で蛍光陽性細胞を選別し、その細胞にとりこまれたレトロウィルス遺伝子をシークエンスで確認、基質分解酵素誘導候補遺伝子を網羅的にスクリーニングする。そのなかで、2つのライブラリーを比較し、変形性関節症関節軟骨のライブラリーで特異的に発現す る候補遺伝子の選別と検証を行う。本研究課題は上述したように直接治療ターゲットになりうる分子の同定に挑むものであることから、リガンド、膜タンパク、受容体など創薬の観点から有望なターゲットを優先的に選択する。候補遺伝子のgain-of-function のモデルとしてII型コラーゲンプロモーターの制御下に軟骨特異的に過剰発現するトランスジェニックマウス、loss-of-function のモデルとしてCre/loxP システムを用いたコ ンディショナルノックアウトマウスを作出する。さらに、同定された遺伝子に対する低分子化合物を作出し、その治療効果について検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験を遂行するための主な試薬消耗品としてプラスミドDNA の作成と精製の試薬キット (QIAGEN QIAprep Spin Miniprep Kit, HiSpeed Plasmid Midi Kit, QIAquick PCR PurificationKit, QIAquick Gel Extraction Kit, Roche Rapid DNA Ligation Kit、Takara 及びNEB の制限酵素、TOYOBO KOD-plus)、シークエンス試薬(ABI BigDye Terminator)、Dual Luciferase Assay試薬(東洋インキ、ピッカジーンデュアルシーパンジー)、Real Time PCR 関連試薬(QIAGEN RNeasyMini Kit, Quantitect RT-PCR Kit, Stratagene Full-velocity SYBR Green Q-PCR MasterMix)、遺伝子導入試薬(Roche FuGene)、免疫染色キット(Dako CSA II)、in situ hybridization 関連試薬(Roche DIG system)、各種抗体(Santa Cruz、SIGMA)、その他細胞培養、大腸菌培養用の培地・培養液、(コージンバイオ、invitrogen)などが必要である。マウス遺伝子改変マウスの作成およびマウス発生肢の組織レベルでの発現解析のためにマウスの購入・飼育費用が必要である。研究成果については、国内外の学会で発表する予定であり、そのための旅費等を計上している。
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