脊椎椎間板は、椎骨と結合し脊柱を構成する組織であり、加齢や力学的負荷による椎間板の変性・損傷は、椎間板ヘルニアなどを引き起こし、患者に激痛を与え、日常生活に多大な影響を及ぼす。椎間板の損傷・変性は、栄養血管が少ないことからその治癒力は非常に弱く、再生が困難であり、新たな再生医療技術の開発が望まれており、治療法の開発に向けての基盤となる分子メカニズムの解明が急務とされている。しかしながら、椎間板の発生における遺伝子ネットワークやこれら変性メカニズムは未だ殆ど分かっていない。我々は、約1500個の転写因子、転写コファクターのWhole-mount in situ hybridization (WISH)データベースEMBRYSを構築し、腱・靭帯に特異性の高い発現を示す転写因子としてMohawk homeobox (Mkx)を同定し、このMkxが腱形成に必須の転写因子であることをノックアウトマウスの解析により明らかにしているが、このMkxは椎間板線維輪においても発現し、Mkxノックアウトマウスでは、加齢と共に椎間板の変性が見られることを明らかにした。ヒト線維輪細胞を用いてMKXをノックダウンさせると、SCXやTNMDなどの靭帯関連遺伝子の発現が低下し、軟骨分化のマスター制御因子であるSOX9の発現が上昇した。さらにC3H10T1/2細胞においてMkxを過剰発現させた細胞では、腱・靭帯関連遺伝子の発現が増大し、軟骨分化、骨分化、脂肪分化を抑制することを明らかにした。以上のことからMkxは、他の細胞系への分化を抑制し、線維輪の恒常性維持に重要な遺伝子であることが示された。
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