研究課題/領域番号 |
24659671
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石黒 直樹 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20212871)
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研究分担者 |
鬼頭 浩史 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (40291174)
酒井 忠博 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (60378198)
金子 浩史 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座助教 (60566975)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | SOX9 / TRPV4 / ATDC5細胞 / 機械受容体 |
研究概要 |
TRPV1~4の軟骨分化への影響を確認する目的でATDC5細胞各種培養条件下に実験を行った。ATDC5細胞を定型通り単層培養後にセミコンフルエントの状態でインシュリンを添加した。添加1日目より各日にmRNAを採取、定量的PCRにてSOX9mRNA発現に先行してTRPV4 mRNA発現が上昇するのを確認した。この上昇はインシュリン添加後比較的短時間に起こり、いわゆるmesenchymal condensationにやや先行する形で視られた。次に3時限培養下に機械刺激を負荷する実験系を用いてTRPV1~4を順次RNA干渉によって抑制してSOX9、II型コラーゲン、アグリカンのmRNA発現量を検討した。TRPV4がSOX9mRNA発現に一番強い関連を示した。そして結果として、II型コラーゲン、アグリカンの発現量もそれに伴い抑制された。以上からATDC5細胞の軟骨細胞への分化にはカルシウムイオンチャンネルであるTRPV4を介したSOX9発現が関与することが示された。カルシウム除去の機械的刺激負荷の3次元培養条件でのSOX9mRNA発現量の検討を行い、同様に低下が起こることを確認した。SOX9の発現はWestern Blotによる蛋白定量によっても確認された。ATDC5の培養系に機械的刺激(伸長刺激)を加えると軟骨分化が促進されることは既に報告済みである。RNA干渉を使用してTRPV4を抑制すると機械的刺激によるATDC5分化促進効果が抑制されることを見出した。この機械的刺激による促進効果はカルシウム除去でも同様に抑制されることから、カルシウムチャンネルであるTRPV4を介した促進効果である可能性が強く示唆された。幹細胞から軟骨細胞への分化にTRPV4が関わる可能性と機械的刺激による軟骨分化促進効果はTRPV4活性化を介しているとの結論を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軟骨細胞分化にTRPV4がSOX9を介して関わることが少なくともATDC5細胞で明らかとなった。これは仮説が正しく研究の方向性に間違いがなかったことを証明するものである。機械的刺激が軟骨細胞分化に関わることは多くの研究者によって示されている。これを臨床医学に応用しようとすると複雑な運動負荷培養装置が必要とされる。本研究結果からはTRPV4の活性化物質を用いれば機械的刺激と同等の軟骨細胞分化の促進効果が得られる可能性が示されたことになる。既に24年度の研究成果は内外の学会に発表を行った(ORS 2013, JCMS 2013)。25年度はTRPV4の活性化物質を用いて同等の効果が得られるか、否かの検討を開始している。既に予備実験では良好な感触を得ている。確認後には我々が使用しているドラッグスクリーニング系を用いて候補化合物の選択を開始する予定である。これにより軟骨障害の予防薬の開発の糸口を提供するものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の計画分について順調に研究は進捗し、学会発表も行った。論文投稿の準備中である。 25年度はTRPV4を標的として細胞内カルシウム流入による細胞内カルシウム濃度上昇を指標に所有する3000種類の化合物からTRPV4の活性化物質を検討する。既にTRPV4にはアラキドン酸化合物が活性化物質として知られており、新規物質が見出せない時にはアラキドン酸化合物をその後の実験に使用する。当初はATDC5細胞を定型通り単層培養後にセミコンフルエントの状態でインシュリンを添加し、1日目より各日にmRNAを採取、定量的PCRにてTRPV4mRNA発現を確認後に、活性化物質の添加SOXmRNAの発現量変化を確認する。次に3時限培養下に機械刺激を負荷する実験系を用いてTRPV4をRNA干渉によって抑制、活性化物質添加によっても代表的軟骨細胞分化マーカー、即ちSOX9mRNA発現量の変化が無いことを確認する。これによりTRPV4の活性化と機械的刺激の関連を再度確認する。軟骨細胞は単層継代培養により軟骨形質を失う事が標的遺伝子の発現量から確認されているが、これに併せて細胞表面マーカーに変化を生じることを明らかとしている(NMJ 2013)。これを防止する目的で3次元培養あるいは機械刺激負荷などの特殊な培養環境を用いる。単層培養にて軟骨細胞形質が保たれる方策の開発は軟骨損傷治療の発展に寄与する。細胞表面マーカーを指標に単層培養下での軟骨細胞脱分化の抑制効果をTRPV4活性化物質から判別する。機械的刺激による軟骨細胞活性化機序の解明と不動化による軟骨損傷防止のための基礎的検討に進む予定である。ドラッグスクリーニングの系は確立されている。また、軟骨細胞脱分化マーカーについても検討がすんでおり、実行に支障はない。
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次年度の研究費の使用計画 |
TRPV4の活性化物質を用いて軟骨細胞のマスター遺伝子SOX9mRNA発現上昇効果を検討する。このためにSOX9レポーターコンストラクトを作成し、遺伝子導入実験を各軟骨系培養細胞にて行う。このために資金は細胞培養及び遺伝子導入、mRNA発現解析に必要な消耗物品、薬品などの購入費用に充てられる。成果発表のための旅費、出版費用も必要で有る。ドラッグスクリーニング系を用いて候補化合物の選択を開始する予定である。これには多量の遺伝子導入細胞を必要とするので、それの試薬も必要となる。殆どの研究費は細胞、試薬、消耗品の購入に充てられる。特に最終的にはヒト軟骨細胞を使用することが必要のために、市販細胞の購入が必要となる。特別に高価な器材の購入の予定はない。
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