末梢神経あるいは中枢神経の損傷による神経障害性疼痛に対しては、慢性期には三環系抗うつ薬やプレガバリン、ガバペンチン、クロナゼパムなどの抗てんかん薬による内服治療が主体になるが、難治性で服薬も長期に渡る症例が多い。最近、新たな治療の試みとして、ラットを用いた実験でマウスの胚性幹細胞(ES)細胞から分化誘導させたGABAergic神経細胞のくも膜下投与によって脊髄損傷に因る神経障害性疼痛が軽減される事が報告されている。 2006年にYamanakaらによって、ES細胞の様に多様な細胞に分化出来る分化万能性 (pluripotency)と、分裂増殖を経てもそれを維持出来る自己複製能を持つiPS細胞(induced pluripotent stem cells)が、マウスの線維芽細胞に4種類の遺伝子を導入することにより、世界で初めて作られた。また、2007年にはヒトの線維芽細胞からも同様にiPS細胞が作成された。iPS細胞は体を構成するすべての組織や臓器に分化誘導することが可能と考えらる。一方、iPS細胞を経ずに体細胞を直接特定の細胞に変換分化させる試みも始まっている。2010年には3種類の遺伝子を導入する事により、マウス線維芽細胞を神経細胞に変換出来た事が発表された。Vierbuchenらはこの神経細胞をinduced neuronal(iN)cell(転換神経細胞と仮に呼ぶ)と名付けた。このiN cellは大部分が興奮性の神経細胞だが一部はGABAergic神経細胞である。 将来的な臨床応用を目指して、マウス線維芽細胞を神経細胞に変換し、GABAergic神経細胞を誘導分離する方法を検討する。神経障害性疼痛モデルマウスを作製し、試験的に分離細胞をくも膜下に投与し、神経障害性疼痛が軽減されるかどうかを検討する。
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