正に電荷した局所麻酔薬は細胞膜を通過しないため,生理的状態では神経遮断作用を得ることは難しい.最近の研究により,カプサイシン受容体(TRPV1)を開口させることにより正に電荷した局所麻酔薬がTRPV1のポアから細胞内に侵入し,TRPV1が活性化した神経のみを選択的に遮断することができることが明らかとなった.しかしながら、TRPV1を開口させるための刺激は痛みを伴うため,その臨床応用は困難であった.抗腫瘍薬であるイミキモドはTRPV1を活性化して痒みを発生させる。したがって、既にTRPV1が活性化しているため、正に電荷した局所麻酔薬がTRPV1を介して細胞内に侵入し局所麻酔薬効果を発揮し、選択的に痒みを抑制する可能性がある。そこで、イミキモドによる痒みに対する正に電荷した局所麻酔薬(QX-314)の効果を検討した。イミキモドは野生型マウスで痒みを惹起したが、TRPV1遺伝子欠損マウスやTRPV陽性神経脱落マウスでは痒みは出現しなかった。イミキモドによる痒みはQX-314の全身投与で抑制された。次に、全身麻酔下で脊髄後角細胞の細胞外電位記録を行なった。イミキモド皮下投与により脊髄後角細胞の自発発火頻度が増加した。発火頻度の増加はQX-314の全身投与によって減少した。一方で、触刺激に対する脊髄後角細胞の発火頻度の増加はQX-314の全身投与により変わらなかった。以上により、イミキモドはTRPV1もしくはTRPV1陽性神経を介して痒みを惹起し、QX-314は触覚に影響を与えずに選択的に痒みを抑制することが明らかとなった。TRPV1が持続的に活性化している病態では、外因性にTRPV1を活性化しなくとも正に電荷した局所麻酔薬の効果が得られる可能性が示唆された。
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