研究課題/領域番号 |
24659694
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
川真田 樹人 信州大学, 医学部, 教授 (90315523)
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研究分担者 |
石田 高志 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (60531952)
石田 公美子(松尾公美子) 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (80467191)
峰村 仁志 信州大学, 医学部附属病院, 特別研究員 (40635877)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 局所麻酔薬 / 発達 / 神経毒性 / 痙攣 / 脳内濃度 |
研究概要 |
平成24年度は、局所麻酔薬による直接の脳障害が、成熟ラットと幼若ラットで異なるかどうかを検討するため、 (1)Sprague-Drawleyラットの1-4週齢(P7-P28)と8週齢(成熟ラット)を用い,リドカインを持続静脈内投与を行い、痙攣の出現を観察するとともに、脳波の同時計測を行い、痙攣波の出現を確認した。本研究においては、成熟ラットは体重あたり8-10 mg/kgのリドカインの投与により全身性の痙攣が観察され、脳波上も痙攣波形を認めた。一方、P28ラットでは成熟ラットと同様に7-10 mg/kgのリドカイン投与で痙攣様の運動が観察され、脳波上も痙攣波形を認めた。しかしP7ラットでは痙攣様の運動を認めず、全例、呼吸停止により死亡した。 (2)P14~P21の期間において、リドカインの持続投与で痙攣が誘発されるかどうかを現在も検討中であるが、成熟に従い、リドカインによる痙攣が誘発され、運動としても脳波としても痙攣が確認できるようになることを見いだしている。 (3)重要な知見として、より幼若ラットでは運動としても脳波上の観察としても、リドカインによる痙攣の誘発がなく、呼吸停止により死亡することである。リドカイン特有の反応かどうかを検討するため、ブピバカインを用いて同様に検討を行っているが、やはりリドカインと同様に、幼若ラットでは全例、痙攣誘発されず死亡に至ることがわかってきた。 (4)血中のリドカイン濃度と脳内濃度を測定すべく、脳内にマイクロダイアリシスプローベを挿入し、潅流液中のリドカイン濃度の測定を試みている。この結果により、成熟に伴い局所麻酔薬の血液脳関門の透過性を検討できるが、現時点ではまだ断定的な結論は見いだしていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、発達脳におよぼす局所麻酔薬の中枢神経毒性の研究である。中枢神経毒性としては、急性と慢性の影響が考えられ、平成24年度は急性の影響に検討を加えた。痙攣を急性の中枢神経毒性として観察するのが、これまで成熟ラットで用いられてきた方法であるが、出生まもない幼若ラットでは痙攣が見られないことが示された。このことは、乳幼児に対して硬膜外麻酔等で局所麻酔薬を用いた場合、成人と異なり、「痙攣」により急性の中枢神経毒性を診断できないことを意味し、中枢神経毒性の徴候なく呼吸停止や心停止をきたす可能性が考えられる。あるいは、急性の中枢神経毒性の徴候なくとも、血中の高局所麻酔薬濃度により、遅発性のアポトーシス等が起こる可能性が考えられる。以上より、本研究の達成度としては予定通りの進展であり、この1年で急性と遅発性の局所麻酔による中枢神経毒性についての検討を終えることが可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Sprague-Drawleyラットの幼若ラット(P7-P21)を用い,リドカインとブピバカインをbolus投与後,それぞれ6時間~12時間持続投与し、呼吸抑制を来さない最大血中濃度(~5 μg/ml)を維持する.コントロール群では生理食塩水投与を行う。投与終了から8週齢まで成長させ、その間の発達を記録し,経時的に知覚検査を行い,熱刺激に対する逃避潜時と,機械刺激に対する逃避閾値を測定する,8週齢に達した後、局所麻酔薬投与群とコントロール群で、記憶検査と自由行動距離を測定記録する. (2)組織学的検討:灌流固定にて脳,脊髄,後根神経節をアポトーシスマーカー抗体で免疫染色する.同時にTRPV1抗体でも免疫染色する. (3)TRPV1ノックアウトマウスの幼若マウスを用いて.リドカインとブピバカインをbolus投与後,それぞれ6時間~12時間持続投与する.コントロール群は生理食塩水を投与する.発達を記録し,経時的に知覚検査を行い,熱刺激に対する逃避潜時と,機械刺激に対する逃避閾値を測定する.成熟ラットに達した時点で記憶検査と自由行動距離を測定記録する. (4)組織学的検討:灌流固定にて脳,脊髄,後根神経節をアポトーシスマーカー抗体で免疫染色する.同時にTRPV1抗体でも免疫染色する. (1)~(4)により、幼若ラットの局麻薬投与により脳内アポトーシスが生じることと、このアポトーシスは少なくともその一部はTRPV1を介した反応であることを見いだしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費、旅費、人件費を主として使用する。消耗品費には幼若ラット、ノックアウトマウス等の動物費用と薬品費用、マイクロダイアリシスプローベなどが主体となる。これら消耗品費用が全体の70%で、旅費10%、人件費20%である。昨年度は当初計画で見込んだよりも安価に研究が遂行されたため、次年度使用額が生じた。次年度は研究最終年でもあり、より実験回数の増加が必要であるため、本来の必要額に次年度使用額を加えた研究費で研究を推進する。
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