芍薬甘草湯は、こむらがえりや椎間板ヘルニアなど急激に起こる筋肉のけいれんを伴う痛みの特効薬としてよく用いられる漢方薬である。芍薬甘草湯は芍薬と甘草が1: 1の割合で混合されている。甘草および、その一成分であるisoliquiritigeninはポタシウム電流を低濃度で抑制するが、芍薬と甘草はそれぞれ単剤としてではなく、合剤にすることではじめて筋収縮を抑制する。本研究の目的は、骨格筋のポタシウムイオンチャネルに対する芍薬甘草湯の作用を明らかにし、その鎮痛作用機序は明らかにすることである。 骨格筋に分化するラット心筋由来の培養細胞株H9c2細胞を用いて、ホールセルクランプ法でH9c2細胞のultra-rapid型電位依存性ポタシウム電流(IKur)に対する芍薬甘草湯、芍薬、ならびに甘草それぞれの効果を調べた。 芍薬甘草湯はH9c2細胞のポタシウム電流を抑制した。そのIC50値は約1.3mg/mlで、Hill係数は1.2であった。このポタシウム電流抑制作用について、芍薬甘草湯、芍薬、甘草をそれぞれ10mg/mlの濃度で比較すると、甘草>芍薬甘草湯>芍薬の順に抑制効果が強かった。甘草の主成分であるグリチルリチンについても調べたが、抑制効果はみられなかった。 H9c2細胞のIKurの遺伝子について、RNA干渉法にて検討したところ、Kv2.1である可能性が高いことが確認できた。また、RT-PCR法によりラットの骨格筋にKv2.1のmRNAの発現を認めた。 以上のことから、芍薬甘草湯のこむらがえりを改善する機序のひとつとして、骨格筋のポタシウム電流を抑制することにより、筋線維からのポタシウム流出量を減らし、その間にNa-Kポンプによるポタシウム流入を優位にすることにより、細胞間隙に蓄積したポタシウムイオン濃度を減少させ、細胞内外のポタシウムバランスを正常化することが考えられた。
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