バイオマーカーの探索を行う検体サンプルの選択として、ラット・マウスに麻酔後、脊髄、後根神経節の神経系、一部髄液を採取できた。しかし髄液検体への血液混入の問題は解決していない。神経や髄液、血液以外の候補として唾液も有望な検体となる可能性があったが検体量の問題が考えられた。血液などの体液中に分泌される疾患関連タンパク質を網羅的に探索する実験手法を用いることで、本研究では疼痛動物モデルを用いた特異的なバイオマーカーを新たに探索することに主眼を置いているが、現在までサンプル採取後の試料の調整と分析条件の最適化は遂行できておらず、疼痛モデルにおけるバイオマーカー候補となるタンパク質は見つけられていない。実験手技において膜タンパク質の回収不良、タンパク質の同定数が少なかったりするLC/MS分析 における技術的な問題点があり、研究室の同僚に相談しながら継続する必要がある。挑戦的萌芽研究で応募し、新たな研究テーマに挑んでいるが、検体を用いた痛み関連バイオマーカーの発見は容易ではない。本研究分野の世界的な研究の方向性を確認するために、痛みのバイオマーカーに関する先端的な研究報告を、脳情報通信融合研究センターで行われた国際カンファレンスにて拝聴した。慢性痛における脳機能ネットワークの変化、プラセボの脳内メカニズムと鎮痛効果への認知の影響、痛みの認知機序の新たなモデルの提案、痛み行動に関わる意志決定や、痛みの緩和と報酬系の研究など、また痛みの末梢機序としてTRP活性化に関連したCa2+ dependent Cl channelなど多くの痛み研究に関わる有益な報告があった。痛みや慢性痛のバイオマーカーとして脳機能画像を用いた研究報告がいくつもあり、特に痛みの認知機能的障害が原因の一つと考えられる慢性痛では、この脳機能画像評価方法が相応しいのかもしれない。
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