研究課題/領域番号 |
24659720
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
大西 真 国立感染症研究所, 細菌第一部, 部長 (10233214)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 淋菌 / セフトリアキソン耐性 / 咽頭常在ナイセリア属菌 |
研究概要 |
多彩な薬剤耐性菌の出現が社会的問題となっている。本研究では薬剤耐性遺伝子がどのように形成され、どのように拡散していくのかを理解することを目的として実施している。特に、人体環境に適応してきた病原細菌の薬剤耐性遺伝子の形成過程に着目し、淋菌とナイセリア属菌とにおける薬剤耐性遺伝子プールに焦点をあてる。非病原性ナイセリア属菌の薬剤耐性に関する知見は乏しいため、今年度は、咽頭由来ナイセリア属菌に存在する薬剤耐性遺伝子のレパートリーと咽頭由来ナイセリア属菌の薬剤耐性遺伝子が淋菌において耐性化に関与するか、について検討した。 非病原性ナイセリア属菌コレクションの菌株を拡充させた(n = 135)。これらの菌株の同定を生化学性状をもとに行ない、薬剤感受性試験をおこなった。セフトリアキソン耐性を示す4株が見いだした。これらの株はそれぞれ異なる菌種であることが16Sリボゾーム遺伝子配列の比較からも確認された。淋菌の広域セファロスポリン剤耐性は遺伝子penA遺伝子(PBP2,penicillin-binding protein 2をコードする)が関与しているとされる。本研究で収集した感受性株、耐性株のpenA遺伝子の決定を行った(N= 84)。耐性株penA遺伝子は感受性株のセフトリアキソンに対するMICを親株と同程度に上昇させることが確認できた。つまり、セフトリアキソン耐性遺伝子であることが確認された。 世界で初めて分離されたセフトリアキソン耐性淋菌H041のpenA遺伝子、あるいは各菌種の感受性株のpenA配列との比較検討を行うことで、4つのアミノ酸がセフトリアキソン耐性に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では平成24年度において2つの項目に分けて研究を進めた。 その一つ 「A 咽頭由来ナイセリア属菌に存在する薬剤耐性遺伝子データベースの構築」においては、「A-1 咽頭由来ナイセリア属菌の菌株コレクションの拡充」および「A-2 セフトリアキソン耐性遺伝子の同定」についてはほぼ予定通り進展した。セフトリアキソン耐性に関与するアミノ酸が複数存在することがしめされ、その耐性にあたえる寄与度について現在検証中であり、セフトリアキソン耐性遺伝子の定量的PCR法の開発にはいたっていない。咽頭由来ナイセリア属菌の種の同定が生化学的性状を基に行なう従来法と、16S リボゾーム遺伝子配列をもとにした系統解析とで一致しないことを見いだした。このことは、2012年 J S. Bennett et al. によって既に報告されており、種同定の混乱を解消することに時間を費やした。そのため、予定していた「A-3アジスロマイシン等の薬剤耐性遺伝子の同定」についてはやや遅れている。アジスロマイシンに対する感受性試験の結果は得ていることから、H25年度に順次実施する。 二つ目の課題である「B. 咽頭由来ナイセリア属菌の薬剤耐性遺伝子が淋菌において耐性化をもたらすかの検討」について淋菌においてPCR産物を用いた形質転換により耐性化をもたらすことが確認され、順調に進展している。また、感受性淋菌株および耐性株の混合培養においても耐性が伝播すること、それは耐性株からpenA遺伝子が感受性株に伝播することによることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、「セフトリアキソン耐性非病原性ナイセリア属菌が淋菌治療においてポピュレーションを増大させるか」について検証を行なう予定である。セフトリアキソン投与前後のセフトリアキソン耐性遺伝子の有無、増減を確認する。 平成24年度において見いだされた4つのアミノ酸変異のセフトリアキソン耐性に与える影響を淋菌および咽頭由来非病原性ナイセリア属菌において確認する。加えて詳細なpenA遺伝子塩基配列の比較から、咽頭由来ナイセリア属菌のなかでの耐性penA遺伝子の成立機構について検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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