研究課題
異所性妊娠は子宮外で絨毛細胞が増殖することで発症する。その薬物療法としてメトトレキセートが用いられているが、進行例には効果が低く、様々な副作用を生じる。本研究は、絨毛細胞の発育に重要な細胞シグナルを標的とし、我々が確立したモデル動物を用いて異所性妊娠の新たな薬物療法の開発を行うことが目的である。 絨毛細胞の発育に重要な細胞シグナル(リガンド/受容体)の候補の網羅的同定を昨年度行い、本年度の研究計画では、1. 候補因子による絨毛発育制御機構の解明とシグナル抑制方法の探索、2. 異所性妊娠モデル動物用いたシグナル抑制効果の判定を予定していた。最終候補因子の1つであるbrain-derived neurotrophic factor (BDNF)とその受容体であるTrkBを同定した。正常および異所性妊娠において、BDNFは分化した細胞であるsyncytiotrophoblastおよびextravillous trophobblastで産生され、TrkB受容体はcytotrophoblastおよびextravillous trophobblastに発現していた。絨毛の組織培養系において、TrkBシグナルの抑制はcytotrophoblastの分化と増殖を抑制した。さらに、SCIDマウスの腎被膜下にヒト絨毛組織を移植して作成した異所性妊娠モデルマウスにおいて、TrkBシグナルの抑制はcytotrophoblastの分化と増殖を抑制することで、移植絨毛の発育を抑制した。TrkB抑制剤の効果は既存の異所性妊娠の薬物療法であるメソトレキセートより有効であった。
3: やや遅れている
本研究では、絨毛細胞の発育に重要な細胞シグナル(リガンド/受容体)の候補の網羅的同定を行い、最終稿補因子の機能的解析により、絨毛細胞の発育に重要な細胞シグナルを標的とし、我々が確立したモデル動物を用いて異所性妊娠の新たな薬物療法の開発を行う予定であった。本年度の研究結果から、BDNF/TrkBシグナルの抑制が新たな薬物療法となりうることを示したが、他の最終稿補因子の解析はまだ終了していない。
残りの最終稿補因子の解析のため、科学研究費助成事業の延長を申請し受理された。来年度に残りの最終稿補因子の解析を進める予定である。
本年度は、絨毛発育に重要な細胞シグナルの候補に対して、絨毛発育制御機構の解明とその細胞内シグナル抑制方法の探索、異所性妊娠モデル動物を用いた生体内での効果を評価する予定であった。候補因子の探索で予想以上に多数の候補が同定され、試験に使用するヒト絨毛細胞が不足している。各候補を個々に解析するよりサンプルを揃えた状態での解析が時間と研究費を節約できるため、現在細胞の収集中であり、未使用額が生じた。必要な細胞が揃い次第、同一の系で包括的に全ての候補因子に対して、絨毛発育制御機構の解明とその細胞内シグナル抑制方法の探索を行う。その結果得られる最終候補因子に対して、モデル動物を用いた生体内での効果の評価を行う。
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