研究課題
哺乳類の精子は、射精により受精能獲得のプロセスを経て、運動性の亢進および卵母細胞肥沃化のために超活性化される。このプロセスは、先体反応前、あるいは卵に出会う直前の時点で生じ、精液の中にある受精能獲得抑制因子によって起こる可逆的過程である。これまでに、精子尾部は、グリカンにより濃密にカバーされ、尾部表面への抗体のアクセスを妨げていることを報告している。本研究では、新規に、エンド-βガラクトシダーゼ(糖鎖ポリラクトサミンを加水分解する酵素)を用いて、インフォームドコンセントを得て採取したヒト精子を処理すると、“サイクリックAMPレベル”および“カルシウム流入”を増加させ、精子の運動能を亢進できることを見いだした。また、質量分析の解析で、精子に関与するポリラクトサミンが硫酸化(sulfated)されフコシル化(fucosylated)されていることを明らかにした。さらに、エンド-βガラクトシダーゼ処理前後の精巣上体の免疫組織化学では、ポリラクトサミンが、精巣上体の上皮細胞によって合成され、精液へ分泌されることも確認した。ポリラクトサミン受容体の候補は、FGFR2を発現するHEK293T細胞を用いた実験により、FGFR2であることが判明した。また、HEK293T細胞と結合するFGF、およびFGFによるFGFR2のチロシンリン酸化は、外因性の精液ポリラクトサミンによって抑制された。以上より、エンド-βガラクトシダーゼとFGFを組み合わせて、精子を処理することで、多糖類に覆われた精子尾部のFGFR2が露出され、EGFの結合により精子の直進運動性が亢進することが判明した。臨床現場では、運動率の低い精子を活性化することにより受精率向上を可能とする有効な方法が、未だにないのが現状である。本研究で明らかになった基礎研究の成果は、体外受精・胚移植(IVF-ET)に活用でき、臨床応用が期待できる。
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Nature communications
巻: 22;5:4478 ページ: 1-9