研究課題
近年、癌に対する診断法や治療法の進歩に伴って、若年がん患者が妊孕性を温存した治療を選択する機会が増えつつある。原疾患の治療前に患者の卵巣を、切除、凍結保存し、癌の寛解後に卵巣を融解、自家移植する方法のひとつは摘出した卵巣を細かく細切してから凍結し、融解後残存卵巣の皮質内や後腹膜に埋め込む方法がある。凍結融解の成功率は高いが、移植後の血流は新生血管にのみに頼ることとなり、血流不全から卵巣組織が機能する期間が短いことが問題である。そこで凍結した後に自家移植する方法が最終的には必要と考えた。凍結方法としてCAS (Cell Alive System)を用いた凍結方法の検討を行うこととした。CASは磁場の中で細胞を凍結させるシステムで凍結による細胞膜の破壊を最小限に抑えることが可能である。現在、マウス、ウサギ等の全卵巣凍結が試みられている。我々はこれまでにカニクイザル7頭の全卵巣を摘出しCAS装置で全卵巣凍結を行った。続いて融解条件の設定のために凍結後融解の際に4℃で融解する緩慢融解群と37℃で融解する急速融解群に分けて検討した。さらに、凍結群・非凍結群とも融解直後と3時間培養した後にそれぞれ卵巣の固定を行い、Ki67陽性の顆粒膜細胞を含む、形態学的に正常な原始卵胞・一次卵胞の割合を算出し比較検討した。始めにマウスで実験を行った。前顆粒膜細胞および顆粒膜細胞にKi67が陽性となっている原始卵胞および一次卵胞は活動性のある卵胞と考えられている。融解直後は緩慢融解群の方が急速融解群に比べてKi67陽性率は有意に高かった。これにより4℃緩慢融解の方が細胞へのダメージが少ない可能性が示唆される。しかし、3時間培養後の結果を比較検討すると、緩慢融解群と急速融解群ともにKi67陽性率は上昇し、かつ同等であった。このことから融解温度は37℃よりも4℃の方が望ましい可能性が示唆された。
すべて 2015
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American Journal of Reproductive Immunology
巻: 73 ページ: 221-231
10.1111/aji.12331