周産期医学の1つの目標として胎児の状態を非侵襲的かつ安全にどのように把握できるかということが重要な課題である。分娩時は子宮の持続的、間歇的な収縮に伴い子宮筋層内を走行するラセン動脈などの動脈が圧迫され、絨毛間腔の血流が減少し胎児は低酸素状態になる。予備能力が十分にある胎児(reassuring fetal status)であれば、通常の子宮収縮に伴う血中酸素分圧が低下しても胎児心拍モニタリングには影響を及ぼさない。しかし、胎盤機能不全などにより予備能力が低下し、慢性的な低酸素状態になっている胎児では、化学受容体を介して、また直接的な胎児心筋に対する抑制作用のために胎児徐脈が出現し、危険な状態に移行していく。ここまで進行すると現在の胎児評価である胎児心拍モニタリングの異常、出生後の胎児臍帯動脈pH値の低下、低Apgar scoreなどが観察される。このような陣痛に伴う子宮筋の虚血再灌流状態では大量の活性酸素種(ROS)が産生され、過剰な酸化ストレスが生じていることが推測される。これまでの我々の研究で酸化ストレス時の評価として、血中の抗酸化物資の中で、最も酸化ストレスに速やかに反応するビタミンC(VC:増加したROSを中和する)に着目して、その有用性を報告している(Matsumoto S et al. J Neurochem Res. 2010)。電子スピン共鳴法によりビタミンCラジカルを測定し、間接的にビタミンCをリアルタイムに測定する手法を用いて、分娩時の酸化ストレスをより早い段階で評価(これまでの胎児評価法で観察される状態より前の段階)を可能とする本研究は、reassuring fetal statusからnon-reassuring fetal statusに至る過程の解明の一助になったと考えられる。
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