染色体転座に起因する習慣流産に対する着床前診断は、卵割期の胚から1-2割球を採取し、間期核FISHより診断を行う方法が主である。診断に用いる細胞が1-2個と限られており、熟練した高度な技術が必要とされる。胚盤胞より栄養芽細胞を生検し、着床前診断を行うことも可能である。卵割期に比較し胚を構成する細胞数が多いため複数個の細胞を採取でき、胎児の発生に関与しない栄養芽細胞のみを採取することで、生検後の胚発生への影響はより少ないと考えられる。しかし全世界における胚盤胞生検の実施施設は着床前診断・スクリーニング施設の1%に満たないことが報告されている。 また、間期核FISH法は不均衡型転座を判別し胚移植から除外するための技術であり、正常核型と均衡型転座の判別は出来ない。よって、均衡型転座を有する胚が移植されるケースもあり、児が両親と同様の不育症となることが懸念される。 本研究は、均衡型転座の診断が可能な着床前診断法の開発のための基礎研究として、分裂期の胚細胞を得る方法について検討した。分裂期の胚が得られれば、染色体全腕とハイブリダイズするWCPプローブを用いて均衡型転座と正常型の染色体を判別することが可能である。 マウスの胚盤胞細胞を染色した結果、染色体の観察された細胞は2/187個(1.1%)だった。6時間の細胞分裂阻害剤処理を行ったところ、コルヒチン処理は36/300個(12.0%)、コルセミド処理は49/233個(21.0%)と、コルセミド処理群で有意に多い分裂期の細胞が観察された。さらにコルセミド処理を16時間に延長したところ、44/145個(30.3%)の細胞が分裂期で停止し、有意に多い分裂期細胞を得ることが出来た。胚盤胞生検では通常5-6個の細胞が採取されることから、分裂期細胞を用いた診断の可能性が示唆された。
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