研究課題/領域番号 |
24659744
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高田 雄介 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (60623999)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 老人性難聴 / 加齢性難聴 / 脂肪酸結合タンパク質 / 内耳 / 蝸牛 |
研究概要 |
脂肪酸結合タンパク質(Fabp: fatty acid binding protein)は多価不飽和脂肪酸の細胞内キャリアであり、脂肪酸の輸送や代謝調節、更に様々な転写調節を行う。近年、Fabp3とFabp7が内耳の蝸牛において発現していることが報告されたが、その機能は不明であった。 H24年度においては、まず野生型マウス蝸牛でのFabp3とFabp7の発現を、免疫染色法を用いて確認した。Fabp3はらせん神経節の神経細胞とコルチ器の支持細胞に、Fabp7はらせん神経節の衛星細胞、コルチ器の支持細胞、らせん板縁・らせん靭帯の線維細胞にそれぞれ発現していた。 続いてFabp3 KOマウス、Fabp7 KOマウス、野生型マウス(C57BL/6)を長期飼育し、老化に伴う聴力変化(ABR)および蝸牛形態変化を解析した。Fabp7 KOマウスと野生型マウスの比較において、2・7ヶ月齢の時点で32 kHzでの聴覚閾値がFabp7 KOマウスで有意に低値であり、12ヶ月齢になると全音域でFabp7 KOマウスの聴力閾値が有意に低値となった。Fabp7 ヘテロKOマウスの聴力閾値は、Fabp7 KOマウスと野生型マウスの中間程度であった。組織学的にも、老齢Fabp7 KOマウスの蝸牛ではらせん神経節細胞、らせん靭帯・らせん板縁の線維細胞、コルチ器の有毛細胞の脱落が遅れる、またはその傾向があった。このように加齢性難聴の発症や進行が遅れるマウスは珍しく、蝸牛におけるアンチエイジングのモデルマウスとして国内特許の出願を行った。なお、Fabp3 KOマウスと野生型マウスの比較では、各タイムポイントにおいて有意な聴力閾値の差を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)Fabpノックアウトマウスを用いた聴覚機能解析・組織解析、(2)Fabpノックアウトマウスを用いたneuroshpere法による蝸牛幹細胞機能解析、(3)ARA・DHA食餌による加齢性難聴の治療法の開発を行う計画を立案した。 H24年度においては、(1)の解析を当初の予測以上に進めることができた。聴力測定サンプル数がやや少なかったことと、酸化ストレスやアポトーシスの評価法を確立できなかったことが課題である。(2)については、より簡易かつ生体環境に近いコルチ器の器官培養の実験系の確立を行った。(3)については、餌の組成について検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Fabpノックアウトマウスを用いた聴覚機能解析・組織解析について:Fabp7 KOマウスが蝸牛においてアンチエイジングな表現型を示すことから、Fabp7 KOマウスと野生型マウスの蝸牛で発現量の変化している物質を網羅的解析(DNAマイクロアレイ、メタボロミクス)を用いて探索し、抗加齢物質の発見を目指す。また、Fabp7 KOマウス蝸牛での酸化ストレスやアポトーシスを評価する方法を確立する。 (2)Fabpノックアウトマウスを用いたneuroshpere法による蝸牛幹細胞機能解析:コルチ器の器官培養と並行して、neuroshpere実験系の確立を目指す。 (3)ARA・DHA食餌による加齢性難聴の治療法の開発:適切な脂肪酸含有量の餌を作成し、長期投与実験を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
マウスの飼育費用(施設費、食餌:20万)、免疫染色の試薬費(抗体:10万)、タンパク定量のための試薬費(ELISAキット:10万)、DNAマイクロアレイの費用(70万)、学会旅費・参加費(20万)での使用を計画している。 次年度の使用額は今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、H25年度請求額とあわせ、H25年度の研究遂行に使用する予定である。
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