研究課題
加齢性難聴の発症機序の多くは今だ不明である。今回、必須脂肪酸であるドコサヘキサエン酸とアラキドン酸、そして脂肪酸の細胞内キャリアである脂肪酸結合タンパク質(fatty acid binding proteins:Fabps)に注目し実験を行った。C57BL/6系統の野生型マウス、Fabp3 KOマウスおよびFabp7 KOマウスを使用し実験を施行した。各群のマウスに対し、聴性脳幹反応(ABR)を用いた聴力測定、摘出蝸牛を用いた免疫染色、HE染色、surface preparation法、電顕観察を行った。更に、Fabp7 KOマウスと野生型マウスに対し、トランスクリプトーム解析を行った。らせん神経節細胞とコルチ器支持細胞で発現するFabp3に関して、その KOマウスの聴力閾値は野生型と差を認めなかった。一方、らせん神経節衛星細胞、らせん靭帯・らせん板縁線維細胞、コルチ器支持細胞で発現するFabp7に関して、そのKOマウスの加齢に伴う聴力閾値の上昇は、野生型マウスに比較し有意に軽度であった。また、Fabp7 KOマウスでは加齢に伴う蝸牛構成細胞数の減少が軽度であった。トランスクリプトーム解析では、Fabp7 KOマウスの蝸牛において、糖代謝やエネルギー産生に関与する遺伝子群の発現上昇と、脂質代謝に関与する遺伝子群の発現低下が認められた。なお、当初予定していた脂肪酸高含有食餌の投与実験および蝸牛でのneurosphere作成実験は、Fabp7 KOマウスの実験が当初の想定よりも進展したため、予備実験の段階に留まった。本研究により、①Fabp7が欠損すると加齢性難聴の進行が遅くなること、②Fabp7の欠損により糖代謝や脂質代謝に関与する遺伝子の発現変化が生じること、③Fabp7およびそのシグナル経路が加齢性難聴の発症機構の解明に重要である可能性が示された。
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Neuroscience Research
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10.1016/j.neures.2014.02.003.