研究課題/領域番号 |
24659748
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
島田 昌一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20216063)
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研究分担者 |
石田 雄介 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30381809)
中村 雪子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90548083)
山田 貴博 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40601597)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 化学療法 / 5-HT3受容体 / 抗癌剤 / セロトニン |
研究概要 |
化学療法の副作用として悪心嘔吐が生じる場合があるが、これは抗癌剤の投与後、幾つかのステップを介して迷走神経のイオンチャネル型セロトニン受容体(5-HT3受容体)の応答が引き起こされ、延髄の嘔吐中枢を刺激するためである。抗癌剤は組織で活性酸素を発生させ、それをEC細胞が感知してセロトニンを分泌し、迷走神経の5-HT3受容体にシグナルを伝えるが、本研究では,ある種の抗癌剤が5-HT3受容体に直接作用して、5-HT3受容体の応答を増強する場合や、抑制する場合があることを見いだした。 特に、抗癌剤のトポテカンは5-HT3受容体の構成サブユニットが、Aサブユニットのみから成るホモマーの場合は抑制的に働き、ABサブユニットから成るヘテロマーの場合はチャネル応答を増強するように働くことを明らかにした。つまり、トポテカンは5-HT3A受容体に対してpIC50=3.9±0.1で、5-HT3AB受容体に対してpEC50=5.1±0.1であった。 これらの結果より、抗癌剤のトポテカンが、5-HT3受容体のサブユニットの構成内容に応じて、5-HT3受容体の応答を半分以下に抑制的したり、2倍以上に増強する方向で働きうると考えらた。このことは、抗癌剤の種類によって、悪心や嘔吐の副作用が強いものと弱いものが存在することの説明の一助と成るかもしれない。また、抗癌剤を開発する際に、5-HT3受容体への影響を調べることにより、より副作用の少ない薬剤の開発に繋がる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究で、抗癌剤の一つであるトポテカンが、5-HT3受容体のAサブユニットのホモマーに対しては抑制的に働くが、一方、ABサブユニットのヘテロマーに対しては増強するように働くことを見いだした。 サブユニットの種類に応じて、トポテカンの5-HT3A受容体に対するpIC50は3.9±0.1で、5-HT3AB受容体に対するpEC50は5.1±0.1であった。 これらの結果より、抗癌剤のトポテカンが、5-HT3受容体のサブユニットの構成内容に応じて、5-HT3受容体の応答を半分以下に抑制的したり、2倍以上に増強する方向で働く可能性が考えらた。この内容は、初年度の計画である5-HT3受容体の各サブユニットへの特異的な修飾を検討するという内容をおおむね満たしている。
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今後の研究の推進方策 |
5-HT3受容体のサブユニット間や、ヒトとマウスの5-HT3受容体の間で抗癌剤に対する感受性が異なるものが存在することを平成24年度にみいだした。それらの5-HT3受容体のアミノ酸が異なる部分に注目し、キメラ受容体やポイントミューテーションを作成し、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて抗癌剤の5-HT3受容体に対する結合箇所を明らかにする。 また、ヒトにおいては、5-HT3B受容体のY129Sの遺伝子多型が高頻度に存在するが、この遺伝子多型と抗うつ薬のパロキセチン投与時に生じる副作用の悪心との間に相関関係があるとの報告がある(Sugai et al. Pharmacogenomics J. 6. 351-356, 2006)。本研究においても、5-HT3B受容体の遺伝子多型のY129Sのポイントミューテーションを作成し、抗癌剤に対する感受性を同様にアフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて解析する。 これらの研究を通して、抗癌剤の副作用である悪心・嘔吐に関して、5-HT3受容体に抗癌剤が直接働いて、この副作用を増強もしくは抑制する可能性を検討すると同時に、これらの副作用の程度の個人差が、5-HT3受容体の遺伝子多型と関連があるかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究を進めていくにあたって、必要に応じて研究費を執行したため当初の見込額と執行額は異なったが、おおむね順調に研究成果が得られたので、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含めて当初の予定通りに研究を進めていく予定である。
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